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物流ニュース
始まるハラール対応、物流業界で広がる認証取得
2015年9月9日
近年、日本でも注目を集めている「ハラール」。「イスラム法で許された項目」を意味する言葉で、同法上で許されている食材や料理、製品、サービスなどを指す。この「ハラール」のルールに則り生産・提供する体制が整っていることを証明するのが「ハラール認証」だ。現在はメーカーが中心となり取得が進んでいるが、ニーズの高まりとともに今後、物流業界へ裾野が広がっていくことが予想され、今年3月に兵機海運(神戸市中央区)、同4月に鈴江コーポレーション(横浜市中区)が同認証を取得している。兵機海運の審査を実施したのは日本ハラール協会(大阪市平野区)。同協会東京支部でハラール監査人を務める伊藤健氏に話を聞いた。
厳格な規律を持つイスラム法。よく知られる禁忌として、豚、犬、酒が挙げられるが、「他の動物でも、法に則った形で屠畜していないと『ハラール』として認められない」という。「包丁の入れ方も細かく決まっており、動物に苦しみを与える殺し方はダメ」。
ハラール製品を扱う倉庫や物流センターでも、当然、製品の取り扱いには厳格さが求められる。「ハラールの逆を意味する『ハラーム』との混在は、いわば『異物混入』に相当する」とし、「それぞれの現場で、衣服や物に付着して入り込む『意図せぬもの』への対応も含め、対策を講じる必要がある」という。
「食べ物以外でも、ブラシや歯ブラシ、自動車のシートなど、『豚』由来のものは意外とたくさんあり、それらとハラール製品を同じスペースで保管することは許されない」。また、「ウサギや羊、ニワトリ由来の製品なども、ハラール屠畜していないものはNG。油や化粧品なども要注意」とも。「使用する、あるいはハラール製品と同時に取り扱うには、当協会が発行するようなハラール法に則ったものであるとの証明書が必要になる」。
工場に次ぎ、現在は、物流・輸送段階でハラール性をいかに担保するかの取り組みがスタートしており、同協会でも2014年から物流事業者への認証を開始。審査にかかる費用は、監査員の交通費なども含め、トータルで53万円程度。更新は毎年必要。
物流事業者の認証取得でのポイントは、「トラックが油や酒で汚れていないこと」。同法では不浄を禁忌としており、「ハラール向けとするためには、ルールにならってトラックを7回洗浄する必要がある」。
倉庫では、ハラール製品のみを扱う「ハラールエリア」を決めることになるが、「一度エリアを決めたら、他の荷を扱えるように戻すことはできない。取り組みを開始するには、相当の覚悟が必要になる」。当然、箱やパレットもハラール専用となり、「レンタルパレットは使えなくなる」。台車や各種資材、作業スタッフまでも「専用」にしなければならない。
鈴江コーポレーションでは、延べ倉庫面積1万4316平方mの「お台場流通センター」内の常温67.68平方mに、ハラール製品専用の保管スペースを設け、ハラーム製品と隔離。ハラール製品を取り扱うための専門の教育を受けた職員を配置し厳格な管理を行っている。もちろんフォークリフトやパレットも専用としている(写真)。
倉庫での導入時のポイントとして伊藤氏は、「まずは小規模なエリアで始め、慣れることが重要」と話す。また、「イスラム法に造詣が深いムスリム(イスラム教徒)を1人雇うと安心」とも。「礼拝やラマダン(断食)の習慣など、実体験がないと判断が難しい場合もある」とし、「ムスリムが1人いれば、現地の荷主と話す際も安心してもらえるはず。ハラールの信憑性に欠けていると疑われることもない。企業弁護士のような感覚で雇うと良いのではないか」と話す。
同協会では、定期的に「ハラール管理者」講習を実施している。内容は、1日目が「ハラールとは何か」を学び、2日目に技術的な内容を習得するというもの。
試験に合格すると修了証が授与され、内部監査員や社内のハラール対応での中心的な役割を担うことができる。同氏は「まずはそこから。自社ですべきことが明確になるはず」と受講を勧める。
■ハラール市場の規模は
取り組みへの負担は非常に大きく見えるが、市場規模は大きい。伊藤氏は、「ハラールマーケットは世界で204兆円あり、これが2030年までに300兆円に伸びると言われている」と説明。「日本ではその市場の大きさは見えにくいかもしれないが、中東ではハラール製品しか動いていないし、中東アジアや東南アジア、アメリカやヨーロッパにもイスラム人口は多い」と話す。
マレーシアやインドネシアでは、「ハラールパーク」というハラール製品を扱う工場を一か所に集めた工業団地もあるという。
急速に進んだ円安で外国人観光客が急増しており、2020年には東京オリンピックも開かれ、訪日するムスリムの増加は容易に予想できる。伊藤氏も「現状ではまだまだ物量は少ないかもしれないが、今後は確実に伸びていくだろう」と推測する。
◎関連リンク→ 特定非営利活動法人日本ハラール協会この記事へのコメント
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