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    高額化する賠償金 裁判が急増、医療費と介護費増

    2015年9月10日

     
     
     

     平成26年度の決算報告で、全国トラック交通共済協同組合連合会は約11億5000万円の損失を計上した。損益悪化の最大の原因は10億8000万円にものぼる対人再共済事業の損失だ。警察庁交通局のまとめによると、平成26年中の交通事故発生件数は57万3842件、死傷者数は71万5487人と、10年前の平成16年と比べて40%減と大幅に減少している。しかし、事故件数が減少している一方で、人身交通事故の賠償金額高額化の波が押し寄せている。事故賠償の現場と高額化の要因に迫った。
     人身交通事故における高額賠償事案が増加している要因の一つに裁判の急増がある。日弁連交通事故相談センター東京支部発行の「損害賠償算定基準」によれば、東京地裁交通部新受事件数は、平成20年は1400件弱だったものが、平成24年には1778件と大幅に増加しており、増加傾向は現在も続いている。裁判増加の背景には弁護士特約の普及がある。以前は高額な裁判費用から訴訟を躊躇していたケースでも、弁護士特約によって裁判費用の不安がなくなったことで、裁判のハードルが大きく下がっている。また、インターネットの普及で被害者側が情報を得やすくなったことも影響している。


     交通事故における損害賠償額の算定方法には、「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判所(弁護士)基準」の三つの基準がある。自賠責保険基準は自賠責保険によって適応される基準で、支払額は等級に応じて一律。任意保険基準は、示談で解決する場合に適応され、支払額は保険会社により異なる。裁判所(弁護士)基準は、裁判の判決の結果により支払額が決定される。
     ここで注目すべき点は、通常、任意保険基準に比べて裁判所(弁護士)基準の方が高額化するということ。損害費目別に両者を見比べてみると、治療費や休業損害についてはあまり差が出ないものの、傷害(入通院)慰謝料や後遺障害慰謝料などの費目では金額に大きな差が出てくる。
     過去の事例をみると、任意保険基準では、後遺障害慰謝料が100万円だったものが、裁判の結果、290万円に跳ね上がった例もある。特に高額化に影響する費目が、後遺障害による「逸失利益」だ。逸失利益は、後遺障害により被害者が被った将来収入の損害を金額で評価するもので、事故前年の年収と後遺障害等級等を用い、期間については、現在は67歳までで計算される。被害者に第2級や第3級といった重い後遺障害が残った場合、逸失利益が数千万円になるケースも少なくない。
     高額賠償事故の増加には別の要因も指摘されている。医療の発達に伴う死亡事故の減少と重度後遺障害の増加、それに伴う介護費用の増大だ。医療技術の発展に伴い、「一命は取りとめたものの、重い後遺障害が残る」という別の悩みを生み出すこととなった。こうした場合、高額な医療費や介護費用がかかるため、死亡事故よりも、保険金の支払額が大きくなることは珍しくない。
     交通事故民事裁判例の人身損害額上位10件を見ると、死亡事故は2件であり、残り8件は第1級の後遺障害事故となっている。先に上げた逸失利益に加え、重度の後遺障害案件の場合、「将来介護費用」も賠償高額化の大きな要因となっている。
     介護費用については、被害者がどのような介護を選択するかによって、大きく変わってくる。介護施設や職業付添人(ヘルパーなど)を選択する場合は実費全額。家族などが介護する近親者付添人の場合は、1日8000円というのが一応の基準となり、具体的な看護状況により増減することもある。将来介護費用の計算は、これらの日額と平均余命までの期間をもとに算出される。逸失利益の場合は67歳までの期間であったが、将来介護費用の場合は平均余命で計算されることがポイントだ。厚生労働省発表のデータによると、平成25年の40歳男性の平均余命は41.29年となっているので、40歳男性が事故にあった場合、あと41年生きると仮定して、それまでの介護費用が請求される。現在は平均寿命が男女ともに80歳を超えており、事故被害者が高齢者であっても、介護費用が高額化する傾向がある。
     交通事故防止は、運送事業者にとって今も昔も最重要な課題だ。交通事故が及ぼす影響は以前にも増して大きなものとなっている。保険の掛け金の増大や長期に渡る裁判など、大きな事故を起こせば会社の根幹を揺るがしかねない事態になり得る。今こそ、交通事故防止に向けて、業界を上げて取り組むべき時かもしれない。しかし、運送事業者の取り組みだけで事故をなくすことはできない。重大事故の多くは、歩行者、自転車、自動2輪といった交通弱者との事故だ。トラックと交通弱者がお互いに気をつけることで、悲劇は減らすことができる。交通安全の啓発活動など、子どもから高齢者までを対象とした草の根運動を通じて、地域社会を巻き込んだ事故防止が望まれる。

     
     
     
     

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