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多発する未払金トラブル 請求は1人500万円前後
2017年8月4日
ちまたに広がっていた「過払い金の返還訴訟が片付けば、その先は残業未払いがターゲットだろう」という憶測が、トラック運送業界でも現実のものになっている。退職した後だけでなく、在籍したまま未払い分を請求する例も多く、その金額は1人当たり500万円前後が目立っている。労働時間問題の指摘を受けて就業規則や賃金規程を改める事業者が増えているが、家族的経営の小規模・零細の現場では細かなルールを文書化していないケースも少なくなく、それがアダとなって訴訟に発展している。一方、「やられっ放しというわけにはいかない」と構える経営者のなかには最高裁の判断を引っ張り出し、逆にドライバーへ損害賠償を提示する姿もある。
「弁護士から突然、600万円近い未払い賃金の支払いを求める内容の文書が届いた」と兵庫県の運送社長。親心で「出戻り」を許したドライバーが起こした問題だけにショックは大きく、「同僚のドライバーらも『バカなことはやめておけ』と諭したが、耳を貸さなかった」という。当時の労務管理は「まったくのデタラメで、タイムカードも形として置いたような状態。文書を受け取ってから事務員、それに家内にも手伝わせて給料が不要な時間が、どれくらい含まれているかをチェックした」という。結局、双方の弁護士の話し合いによって150万円ほどに減額することで折り合いが付いたが、「ドライバーの女房は最後まで納得していなかった」と呆れる。
同じく兵庫にある運送会社のケース。社長によれば「やめて半年ほどになるドライバーが500万円を超える未払い賃金を求めてきた」という。さかのぼって請求できる残業代は基本的に2年間だが、半年が過ぎていたことで18か月分の未払いを請求してきたドライバーは、同社で2、3年しか働いていなかった。さらに驚くのは、毎月の給料が約60万円あったにもかかわらず「あと30万円ほど足りない」というドライバーの主張だった。
「うちのような小さな会社はコンプライアンスでは食べていけない。働きたい、走りたいというドライバーに可能な限りの仕事を回すことで人材を確保するしかない」と、大型トラックで長距離をバンバン走る現状を打ち明ける。同社の場合、給料明細に「残業」に関する項目がなかったことが失敗の一因とも考えられるが、「日給1万数千円という昔ながらのスタイルで雇っている旧知の同業者もおり、それで残業代を請求されたら大変なことになる」と自戒の念も込めて注意を促している。
一方、広島県の事業者の場合は残業未払いではなく、事故の弁償をめぐってドライバーとトラブルになった。「事故を起こした場合、30万円に設定している任意保険の免責額を、ドライバーが負担することを入社時に確認しているが、それが不服で弁護士に相談したようだ」と同社の取締役。毎月の給料から分割で支払う約束になっていたが、「3分の2くらいを残して退職を申し出てきたため、最後の給料で精算すると伝えたら今回の問題になった」という。
同社では従来、デジタコが止まった時点で終業扱いとしていたが、「その後にいくらかの作業など、労働時間に漏れがあるのでは…」と、先方の弁護士が残業未払いの可能性まで指摘してきたため、「それなら…と、こちらも損傷したキャビンの修理に800万円かかったことを説明し、『20%くらいなら負担させることは可能だろう』というウチの弁護士の助言も持ち出した」という。30万円足らずの争いが、逆に160万円を請求される格好になったわけで、「向こうの弁護士はあっさり引き下がった」と苦笑する。
昭和51年の、いわゆる「茨城石炭商事事件」(損害賠償請求)。会社側が事故による車両損害の全額をドライバーに求め、最高裁が「全額の請求は信義則に反し、最大でも25%程度の負担が妥当」とした判断は「会社側の上告を棄却したドライバー勝訴の判決」ではあるものの、見方を変えれば「従業員の過失などによって発生した損害額の25%程度は賠償請求できる」ことを示したともいえる。
1人のドライバーとの間で、約500万円の残業未払いトラブルを抱えている岡山県のトラック事業者。同社も現在、弁護士から同判例の説明を受けるなどしながら「2台のトラックを潰したうえ、多額の残業代を求めてきたドライバーとの訴訟に向けて準備中。拘束時間が長いのは事実であり、給料面の規程を見直すなど是正すべき点は真摯に受け止めるが、理屈に合わない未払いを請求されて黙っていられない」(社長)と話している。
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