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なぜ社長の話はわかりにくいのか(武田斉紀・著、PHP研究所)
2010年2月2日
「『こうしたい』という考えや思いはあるのに、社員がなかなか理解してくれない」–多くの経営者が持つ悩みかもしれない。これを「理解してくれない社員が悪い」と考える、あるいは「どうせ分かってもらえない」と諦めるのは簡単だ。
企業理念コンサルティングを展開する武田斉紀氏(ブライトサイドコーポレーション代表)の『なぜ社長の話はわかりにくいのか』は、この「伝わらない」原因が明らかにし、さらに伝えるためのステップを教えてくれる。
「社長の話がわかりやすい会社は伸びる」というのが同氏の持論。そして、経営者が「最も伝えたいこと」とは「会社として最も大切にしていきたいこと」であり、それを「企業理念」として掲げるべき―と説く。
「理念は、会社を『どうしたいのか』『どうありたいのか』を考えて社長が決めるべきもの。これをはっきりさせておかないと、社員からは『社長は何を考えているか分からない』と思われてしまう。また、新規事業をやるにしても、『こういうことを目指す会社だからこそ、この事業をやる』という理由がないと、弱いものになってしまう」
さて、理念とは何か。同著によると、「何をめざすか」=「目的」と、「何を大切に」=「価値観」を含み、それを言語化したもののこと。「クレド」で有名なリッツ・カールトンや、「キャスト」と呼ばれる現場スタッフにまでその理念が行き渡っているような東京ディズニーランドのように、独自性を出せればいちばん良い。しかし、いきなりそこを目指すのは難しいだろう。
一方で、よく企業ホームページに「お客さま第一主義」や「感謝」などを掲げる企業を見かける。一見「ありきたり」にも感じられるが、同氏は「それで構わない」と言う。
「私は理念について『こうあるべき』とは決して言わない。経営者の数だけ理念があって良いと考えている。ただし、一度決めたら責任を持って取り組むこと。たとえば、『お客さま第一主義』と決めたら、『本当にできているか?』『もっとできないか?』と徹底してやること。もしかすると、理念に賛同できず辞めてしまう従業員や、離れていく顧客もあるかもしれない。しかし、理念を突き詰めて考え、行動し続けることで、今度は共感して入社してくれる人や新しい取引企業が出てくるはず」
「理念」について考えようとする経営者に対して同氏がよくする質問が「何のためにこの仕事をやっているのですか」。
「『儲かりたいから』と答える人がいるが、儲かりたいのはみんなそう(笑)。『何のために』ということが分かりにくければ、『どんな時にうれしかったか』『この仕事をやっていて良かったと思う時』を考えてもらう。ただ儲かりたいだけだったら、他に良い仕事があるかもしれない。そうではなくいまの会社を続けているのには、必ず理由がある。苦しい時こそ、その原点に立ち戻ることが重要」
一方で、「理念なんて初めからあるわけではない」とも。
「経営のお手本とされるようなパナソニック、ソニー、トヨタ、ホンダのうち、実は、初めから理念があったのは『研究者のための会社を作ろう』として設立されたソニーだけ。他は、商売をしながら自社の存在意義を考え続けることで、後世に伝えるべき理念が生み出されていった。トラック業界にも多いと思うが、『食うために始めた』という社長もいるだろう。2世、3世の経営者であれば『親に泣かれて渋々継いだ』という人もいるかもしれない。しかし、自分がやり続ける、あるいは社員が働き続けてくれる理由、そして顧客が選んでくれる理由がある。ここにその会社の『強み』、つまり『理念』がある」
コンプライアンス順守、環境への対応、コスト削減…取り組むべきことはたくさんあり、「理念のことなんて考えているヒマはない」と思うのももっともな話。しかし、「不況のいまこそ取り組むべき」と同氏は強調する。
「コンプライアンスは『するな』という方向のもの。こればかりでは、給料も上げられない今、社内の雰囲気が悪くなる一方。対して、理念は『やろう!』という前向きなもの。理念という形で目指すべき方向を明確にすれば、社員も『一緒にがんばろう』という気持ちになってくれる。ベクトルが一つになれば、それは大きなパワーとなりきっと良い結果につながるはず」
▼「なぜ社長の話はわかりにくいのか」武田斉紀・著、PHP研究所、1300円(税別)
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