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    経営再生物語(310)人材育成について(14)A社の事例(2)

    2020年10月26日

     
     
     

     ・「扇子商法」に見る人材育成の考え方

     

     ②「船場では、社員に1回言うたらわかる、と思ったら大間違い。何度も何度も、繰り返し教えてええ加減や。こっちが相手の体に染み込むように、繰り返し熱う教えたらんと、いざという時の役には立たん」

     ある中堅企業(運送会社)での幹部研修の際、社員の言葉づかいについてとりあげた。「私の部下で、ものすごく言葉づかいの悪いのがいます。お得意先にでも聞かれていたらと、いつもひやっとします」。私はたずねた。「たとえば、どんなふうな言葉づかいなのですか」。「彼は同僚に対して名前を呼ばず〝おまえ〟とか〝あんた〟とか平気で言います。これは育ちですね。性格ですよ。もう諦めていますが、どうしたらいいでしょうか」

     そこで、私は船場商法について紹介した。繰り返し、繰り返し、相手の体に染み込むように、熱意をもって働きかける大切さを述べた。「うちの社員はダメだ」とさじを投げる前に、繰り返し、繰り返し、教えているか、胸に手を当ててみなければならない。

     ③「手形の署名が乱雑だったり、捺印の曲がったもの、不鮮明なものは、危ない会社。逆に、一流といわれる会社の手形は、必ずきちっとしていてきれいなもの」

     ハダカ一貫から身をおこして、年商百億円企業をつくりあげた社長がいる(アパレルメーカー)。この社長は、ハンの押し方にうるさい。社員が乱雑なハンの押し方をすると必ず注意する。押す場所についても指摘する。

     私は「なるほど、これが生きたしつけ教育だな」と感心している。手形は命だ。命を粗末に扱う企業は失格だ。署名が乱雑だったり、捺印が曲がったりしているのは、いわば小さいことだが、この小さいことをおろそかにしないのが、生きた人間教育である。

     ④「社員の数は、仕事に対して少な目に押さえること。少ない社員を、できるだけ生かして使うこと。人間少ないと、最初はええ加減やった男でも、不思議に上等になりよるんや。その毎日の苦労が、人間つくるねん」

     少数が精鋭をつくるのは真実である。ある産婦人科病院の院長に聞いた話がある。「私の病院が効率よく運営されてるのは、少数精鋭だからです。かつて5人の常勤医師で運営していた時、1人が病気で入院し、あと1人が退職というピンチをむかえたことがありました。残った医師は、〝無理だ〟と言いました。私は〝できる〟と言い張りました。結果は3人で5人分の仕事ができました。手術の方法をなるべく早く、しかも安全にするように工夫したり、回診のやり方を合理化したりして、創意工夫、アイデアを出して乗り切ったのです。今では、その頃の3倍のスケールの病院になりましたが、その発展のきっかけをつくりました」

     人は〝自分がやるしかない〟と思えば力を発揮する。誰かがやるだろうと安易な依頼心があるうちは、ええ加減な人間しかつくらない。

     〝たらぬ、たらぬは工夫がたりぬ〟とのことば通りである。正に毎日の苦労が人間をつくるのだ。     (つづく)

     
     
     
     
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  • 筆者紹介

    川﨑 依邦

    経営コンサルタント
    早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
    63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
    中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
    グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。

    株式会社シーエムオー
    http://www.cmo-co.com

     
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