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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(316)人材育成について(16)ある病院の事例(2)
2020年12月7日
私が心に深く残った話は次のことである。うんともすんとも言わない中年の女性患者が入院してきた。担当看護婦はAさん。Aさんは看護計画を立てて、絶えずコミュニケーションというか、声や身振りで接していく。生活行動をサポートするAさん。温浴したり、口で食事をとらせていく。女性患者は、暗黙の如き絶望状態から蘇っていく。サインも出せるようになった。Aさんは家族を説得して患者用の車いすを用意した。右手は動かない。左手は動く。動く左手で車いすが前に進んだ。家族は感動して泣く。Aさんは心から嬉しかった。病院の方針で、Aさんは担当を変わることになった。
Aさんには心残りがあった。「あなたの右手は動かない。医学的に絶望だ」。このセリフが辛くて、言い出せなかった。2年近くのケアで、今までは女性患者は声を出せないが、あいうえおが並んだ文字の表を一つひとつ押して、自己表現できる。Aさんは言った。「今度、担当が変わることになったの。私も頑張るから、頑張ってね。あなたの右手は動かないの。でも左手があるから大丈夫よ」。女性患者は文字表を押していった。「私も頑張る。でも私には限界がある」。
この話は私にとってある病院の素晴らしさとして記憶している。この病院のケアのあり方が人材育成にとって、一つのヒントを与えた。すなわち次の点である。
①諦めず粘り強く、あらゆる形態のコミュニケーションでもって接していくこと。
この病院の婦長云く、「大切なことは諦めないことです」。人材育成の本質も正にその通りである。「この社員はダメだ」とレッテルをはって放置していたら、何もうまれない。絶えず声をかけて接していく。一人ひとりの美点が、見えてくるはずだ。この美点を伸ばしていくことだ。
②一人ひとりの特性にふまえた成長イメージをもって、育成計画を立てて、一つひとつクリアしていくこと。
担当看護婦はケア計画を立てる。現状をしっかり把握して、成長イメージを持ってケア計画を立てる。この計画性は人材育成にとって大切だ。
③成長の姿を見て感動して泣くような、心の豊かさを持つこと。いわば、感動することの大切さだ。機械ではなく、相手は人間だ。一歩成長したら「良かったね」と心から感動する。この共鳴が人を成長させる。人間の可能性に信頼を置くことが、人材育成の基本である。
(つづく)
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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