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  • ブログ・川﨑 依邦

    一人でも入れる労働組合がやってきた(36)名門会社の倒産が頭をかすめ

    2012年3月9日

     
     
     

     A社長の頭をかすめることがある。上部団体のある労働組合が存在していた運送会社、X社のことである。X社は社歴50年を数える名門運送会社であったが倒産した。実質赤字に転落しても、X社の経営者は資産を切り売りして労働組合の要求に屈してきた。賃金交渉のことである。



     「経営が苦しいのは経営者の責任ですよ。毎年決まっている定期昇給は上げてもらわなくてはなりませんよ」「そんな余裕は我が社にはありません」経営者はつぶやく。その都度、妥協の歴史が続く。資産内容は悪化の一途をたどる。借入金は銀行と交渉して金利の支払いのみにする。そして労働組合に20%の賃金カットを申し入れる。前提として役員報酬は30%カットする。

     経営危機に直面して必死に交渉する。もともとX社の賃金水準は福利厚生も含めると同業の中小運送業と比して20%は高い。社会保険は全員加入している。退職金制度もある。賞与(一時金)もいくら経営が苦しくても、今までは月額1か月分は支払っている。しかし、いよいよ経営危機に直面して苦しい。賞与もゼロ回答する。ところが労働組合は一歩も引かない。ギリギリ妥協しても1人当たり10万円は飲み込まされる。資産内容は悪化するばかり。

     いよいよ売る土地もなくなってくる。本社の土地くらいしか残らない。経営者の意欲が萎えてくる。「いくら交渉しても思うようにならない」。X社の経営者は2代目である。内心バカバカしくなってくる。苦労続きでほとほと嫌になる。それでも思い直して決死の覚悟で人員のリストラを提起する。正社員ドライバーを30%減らして、その分、傭車で補うこととする。正社員ドライバーの人件費負担が重すぎる。正直言って20%の賃金カットでも追いつかないのに、実際は労働組合の交渉で5%の賃金カットで妥結している。思うように賃金カットもできない。「ギリギリなのです」と言っても、「それでは潰れてしまえ」とうそぶく分会員もいるほどである。

     人員リストラを労働組合に提起する。上部団体は「外注化や非正規化は絶対反対です」「経営努力が足りないのです。もっとしっかりして下さい」「我々も精いっぱいの協力をしています。5%の賃金カットや賞与は10万円で協力していますよ」。完全に話が噛み合ってこない。X社の社長は決断する。「倒産」である。かくして自己破産の道に突き進む。

     X社のことがA社長の頭をかすめる。「腹を据えて労働組合と交渉するしかない」。

     
     
     
     
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  • 筆者紹介

    川﨑 依邦

    経営コンサルタント
    早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
    63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
    中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
    グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。

    株式会社シーエムオー
    http://www.cmo-co.com

     
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