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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(167)情と非情のバランスシート〈事例A〉
2017年8月24日
〈褒めない社長〉
企業経営の現実を踏まえてみると、「情と非情のバランスシート」という言葉が浮かんでくる。情とは思いやりとか愛情、非情とは経営数学、シビアさ。このバランスが一方に偏ると、企業経営はうまくいかない。情と非情のバランスシートは、企業経営者にとっては核心的な経営原則である。
A社は、創業者である現社長が車1台からスタートして、いまは100台の陣容となっている中堅物流企業である。A社長の生き様を見ると、情と非情のバランスについて考えさせられる。創業30周年の記念パーティの時、あいさつに立った社長。創業時の苦労を思い、社員に対して感謝の言葉を述べる。「いろいろな風雪に耐えて、よく今まで力を合わせて頑張ってくれた。心から感謝する…」。ここまで言って言葉に詰まってしまった。一瞬、何事かと固ずを飲む。
よく見ると、A社長は泣いている。感極まっている。この光景を見ると、人情家というか、涙もろい社長ということになる。ところが日ごろの社長は厳しい。
社内で伝説となっているエピソードがある。ある乗務員が連日のハードワークに音を上げて、配車係に「もうしんどい。休ませてくれ」とアピールした。確かに早朝から16、17時間働き詰めである。配車係も「これ以上走らせると危ない。休んでもらおう」。すると横にいたA社長いわく、「この荷物は、どうしてもあすの朝一番に届けてくれ―との荷主の願いだ。もうお前しかいない」と、しっかと運転者を見据える。そして一言、「いつでも休めるやないか。棺おけに入ったらぐっすり眠れる」
ひとしきり社内で話題になる。「なるほど、死んでしまえば、いつでも休めるか」。それにA社長は、運転者を常日ごろ厳しく注意している。労務管理の原則の一つに、『褒めて使え』と言うことがある。A社長はなかなか褒めない。むしろ、日常はビシッとしかることが多い。あいさつをせよ。うそを言うな。この二つに反すると、ビシッとしかる。だから、運転者はピリピリとしている。
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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