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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(177)受容と傾聴〈事例A〉
2017年11月17日
〈3年…やっと心開く〉
中学校は義務教育である。不登校のままでも卒業がくる。息子に変化が起きる。「お父さん、ぼくは定時制高校に入りますので、よろしくお願いします。昼間は調理の勉強のため、ファミリーレストランで働きます。そして週1回だけは、パソコン教室に行かせてください」
この突然の申し出に、思わず胸を打たれた。夫婦で泣いたという。「いつまでも続くヌカルミぞ」と絶望しかけながら、その都度、「逃げたらイカン。あきらめるな。オレたちは息子を愛する」。泣けてくる。うれし泣きである。親離れ、子離れのスタートの瞬間である。心から息子の自立を祝福し、閉じこもりからの旅立ちの決意を受け止める。「北風と太陽」の童話に例えれば、マントを脱いだ瞬間である。北風のような強制、命令、プレッシャーでは、人の心は奥のほうからは動かない。太陽=「受容と傾聴」の力こそ、人の心を動かす。
A社長は、息子との足掛け3年にわたる関わりの中で、経営スタイルも変革させていった。息子との関わりで学ぶことができた。学ぶことができた点は、次の通りである。
?オープンな社風をつくること
ワンマン1本ではいけない。「オレに付いてこい」では、人は育たない。創意工夫し、進んでやる人材は、生まれてこない。受け身タイプばかりとなる。そのためには、社風をオープン、開かれたものにすることだ。経営の現状は包み隠さず、数字も含めてオープンにしていく。その上で、どうしたらいいか一人ひとりに考えさせる。自発性というか、やる気を育むためだ。
心を開いて、触れ合って、一人ひとりの心の絆を強くしていく経営である。
「あのワンマン社長が、よく変わったね。確かに今でも怖いけれど、何となく温かい。心が和むね」
A社長は、会議嫌いで通してきた。「会議するヒマがあれば、1分でも働け」――という主義であった。ところが、オープン経営を目指すようになって、会議に力を入れ出した。一人ひとりの活発な意見、自由に言えるコミュニケ―ションづくりを狙いとしている。それも、A社長1人の独演ではない。もっぱら問い掛けと聞き役に徹するようになった。「どうしたらもっと利益が上がるようになるだろうか」
「部下の○○君は、どうして伸びないのか。何か悩みがあるのか」
「人は何のために働くのか」
A社長は基本の経営方針を、今でも、だれにも相談せずに打ち出してくる。中期と年度の経営方針である。トップダウンである。しかし、ここからがひと味違う。聞き役に徹していくのである。どのようにして基本方針を達成していくのか、その手段、方法についてはオープンな社風づくりを中核として、一人ひとりに問いかけていく。いわば、トップダウンとボトムアップのバランスを取っている。
?人にはそれぞれいいところがある
「?あいつはダメだ?と欠点にこだわることはやめよう」とA社長は言っている。「人には、この世に生まれたからには必ず、いいものがあるはずだ。長所を発見していこう」と呼びかけている。「目の前で働いている人を拒否するな。まずは、受け入れていこう」と説いている。
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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