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ブログ・小山 雅敬
第183回:労働時間の削減に向けた固定残業制の効用
2020年5月26日
【質問】働き方改革に伴う労働時間の削減に注力していますが、労働時間を減らすと給与も減るためドライバーからは不満の声が出ており、社内で退職の意向を漏らす者も出始めています。同様の悩みに対応策を講じた事例があれば教えてください。
中小企業では来年から時間外労働の上限規制が始まることもあり、労働時間の削減は喫緊の課題であり、弊社への相談件数も増加しています。関与先企業の中には、社内に「労働時間適正化PT」を組み、一年以上にわたって労働時間削減に向けたサポートを行った運送会社もあります。
労働時間削減を進めるための具体策として、「待機時間の削減と運賃適正化に向けた荷主交渉」「拘束時間が長い仕事からの撤退」「荷役作業の見直し、システムや機械の導入」「ドライバーの多能工化による業務平準化」など検討可能な対策は着々と講じることができます。
しかし、対策を進めるうえで最も問題になるのは、労働時間短縮に伴いドライバーの賃金が減額になることです。賃金低下は時間短縮に対する社員のモチベーションを阻害します。社員のための労働時間削減が、逆に社員の反発を招く事態が運送業の一部で出始めています。中には「やる気があるのに仕事ができない」「稼げないなら転職したい」と公言するドライバーも出てくる始末です。労働時間削減により賃金が下がらない仕組みを導入しない限り、全社員の理解を得て労働時間削減を進めることは困難です。運賃交渉で売り上げを上げて、賃金単価も上げればよいのですが、スムーズに応じてくれる荷主ばかりではなく、切羽詰まった中小運送会社も見られます。
残業時間が減っても賃金が下がらない仕組みの一つとして残業代を固定で支払う方式が考えられます。ただし、固定残業制は、その支払い方法に留意すべき点があります。
適正に運用するためには、①明らかに割り増し賃金としての性格を持つこと②所定内賃金と割り増し賃金が明確に区分されていること③労働時間管理を適正に行い、法定の計算による割り増し賃金額より支給額が不足している場合は、不足分を補填すること④以上の内容が賃金規程に明記され、社員の理解を得て運用されていること︱︱などの条件をクリアする必要があります。
弊社の関与先の中には、固定残業制を導入し、適正に運用することで、社員の残業時間を月平均20時間程度削減した運送会社があります。社員が安心して労働時間の削減に取り組める体制に変えることで、全社で働き方改革に前向きに取り組むことができた一例です。
(コヤマ経営代表 中小企業診断士・日本物流学会会員・小山雅敬)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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