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ブログ・小山 雅敬
第266回:公取委の価格交渉の指針に沿った運賃交渉の進め方
2024年2月16日
【質問】公正取引委員会から価格交渉に関する指針が発表されたと聞きましたが、運送会社が指針に沿った運賃交渉を進めるには具体的にどうすればよいのでしょうか?
2023年11月29日、公取委から「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が発表されました。この指針は労務費の上昇が適切に価格に転嫁されない現状に対し、発注者と受注者が採るべき行動を示しています。
同指針では「発注者の方が取引上の立場が強く、受注者からは価格転嫁を言い出しにくい状況にある」と指摘し、「発注者は受注者から取引価格の引き上げを求められなくても定期的に協議の場を設けること」「受注者が公表資料(最低賃金上昇率、等)を用いて希望する価格については合理的な根拠があるものとして尊重すること」等を求めています。
一方、受注者に対しては「価格交渉において使用する資料は最低賃金の上昇率等の公表資料を用いること」「交渉は繁忙期など受注者の交渉力が比較的優位なタイミングを活用して行うこと」等を求めています。この内容は当方が運送業コンサルティングの現場で見聞きする中小企業の実態をよく反映しており、大変納得感のある指摘です。
なお、道路貨物運送業は労務比率が高い上位業種および価格転嫁率が低いワースト業種の中に含まれており、問題が大きい業種と指摘されています。今後、運送業が荷主と価格交渉を行う際には、公取委の同指針に沿って行うことが効果的であり、労務費以外のコストについても同様と言えます。
中小運送業は次の交渉方法を採り入れるべきでしょう。
①労務費の価格転嫁を交渉する際は「最低賃金の上昇率」を使用する(㋐前回の運賃取り決め時点の地域別最低賃金と現時点の最低賃金を比較して上昇率を算出→㋑労務費が運賃全体に占める割合を算出→㋒運賃の必要上昇率を㋐×㋑で算出)
②労務費以外の燃料費、車両費等の価格転嫁を交渉する際は各コストの上昇率を使う(㋐各コストの上昇率を軽油価格の推移等の公表データから算出→㋑価格推移をグラフ化して示す→㋒運賃の必要上昇率の算出方法は①と同様)
なお、標準的な運賃についても活用すべき公表資料に含まれており、運賃交渉時には必ず標準的な運賃で計算した金額を示して交渉するようにしましょう。公取委は「同指針に沿った行動を行わないで公正な競争を阻害する恐れがある場合には独占禁止法および下請代金法に基づき厳正に対処する」と付け加えています。
(コヤマ経営代表 小山雅敬/中小企業診断士・日本物流学会会員)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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