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ブログ・小山 雅敬
第69回:事故防止を突き詰めると全ての経営改善につながる
2015年11月22日
【質問】わが社の今期の重点目標は「事故削減」です。事故防止は従来からの取り組みで、削減効果が多少出ていますが、まだまだです。運行管理者のドライバーに対する指導が不十分なことも原因の一つだと思っています。今後、どのように進めていけば良いでしょうか。また、事故防止の経営に対する効果を教えてください。
以前、中堅運送会社のベテラン経営者が私に淡々と語られた言葉があります。
「事故防止の社員教育は、河原で一つひとつ石を積み上げるようなものです」「あと一個で完了と思ったら、崩れてまた最初からやり直し。この繰り返しです」「特別なことはしていません。同じことを毎日言う根気だけですよ」
この会社は長期間にわたり、事故ゼロを続けています。積み荷の破損など細かいミスもほとんど発生していません。毎期、安定した利益を確保している会社です。指導していることは、「決めたルールに従い、当たり前のことを必ずやる」ことだけです。経営者自ら、管理者の指導教育に全力で向き合っています。管理者も「事故防止が最優先」との明確な経営方針に従い、ぶれることなく社員を指導しています。
現在、運送業界では、行政監査の厳格化などを背景に、労働時間管理や点呼、点検などの指導を再徹底する傾向が顕著に出てきました。従来、労働時間管理などを「出来るわけがない」と軽視してきた一部の会社も、「いよいよ本気で取り組まないと危ない」と感じ始めています。安全管理が重要との認識は、以前より確実に高まっています。
しかし運行管理の現場を見ると、運行管理者がドライバーより年下で強い指導が出来ないケース、運行効率を上げるために無理を承知で配車指示を出しているケースなども散見されます。実態上、運行管理者が安全管理以外に、売り上げ拡大の役割も担っているため、例えて言うと、同じ人が営業部長と監査部長を兼務しているような状態になっています。経営者が「安全が最優先」との指示を明確に打ち出さないと、運行管理者は荷主とドライバーとの間で板挟みになり、安全が疎かになってしまいます。事故防止の1丁目1番地はドライバーを指導する管理者の教育だと言われます。管理者自身が自覚を持ち、行動しない限り、ドライバーの行動を変えることができないからです。
しかし、本当に一番大事なのは経営者の意識改革と率先行動です。管理者の教育は、必ず経営者が先頭に立って行うことが必要です。経営者以外ではだめです。経営者が自ら安全最優先を社内に宣言し、管理力が乏しい管理者は配置転換するぐらいの覚悟で進めないと、すぐに安易な方向にぶれてしまいます。
特に、拘束時間はいったんルーズになると歯止めがききません。ドライバー任せにしたほうが管理が簡単で、ドライバーもそれを望むことが多いからです。
管理者教育の順序はまず、(1)今出来ていないことの確認、および(2)本来やるべきこと(社内ルール)の決定、から始める必要があります。ドライバー指導のテクニックなど外部講師の研修などはその後です。
検討の進め方としては、(1)経営者と管理者が現状の問題点を全て抽出して改善策を検討する。(留意点 =管理者を責めない、事実で議論する)(2)コンプライアンスに直結する問題であれば、最優先で是正する。(留意点=すぐに完全是正できない事情がある場合でも、必ず是正することを具体的に決める)(3)安全上、さらに改善すべきところがあれば、具体的に改善方法、責任者、スケジュールを決めて取り組む、の順番です。
一般的な管理者研修は経営者の自己満足で終わることも多く、あまり効果が期待できません。目の前にある自社の課題を明確にして、管理者全員で確実に実行することが大事です。全社でスピード感を持って実行することが重要です。
事故防止の活動を徹底すれば、経営の数字がすべての面で改善していきます。修理代や保険料など事故に伴う直接的なコストの減少だけではありません。燃料費やタイヤチューブ代などその他各種のコスト削減につながります。そして最も大きな効果は、管理者と従業員のレベルアップです。安全管理の徹底が、管理者と従業員の意識改革につながり、安全管理以外の日常行動(洗車、マナーなど)においても好影響を与えることになります。
また、安全で規律が守られた職場は、社員の働きやすさにつながり、生産性の向上に結び付きます。そして人手不足の現在、社員の採用に与える効果も甚大です。事故防止の活動を突き詰めると運送会社の経営全般に好影響を与え、会社全体の収益力を上げる効果があるのです。
(三井住友海上経営サポートセンター長・中小企業診断士・証券アナリスト・日本物流学会会員・小山雅敬) -
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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