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ブログ・小山 雅敬
第76回:ドライバーの安全意識を変えたい
2016年2月28日
【質問】社員数30人の運送会社です。事故防止を最重点課題とし、点呼や会議などの場で繰り返し指導しています。しかし、ドライバーの中には「自分は慣れているので大丈夫」と注意事項を聞き流している者がいます。ヒヤリハットの収集にも積極的ではありません。ドライバーの意識を変えたいのですが、他社はどのような取り組みをしているのでしょうか?
運送業の経営課題のうち、最も重要なテーマが「事故防止」です。売り上げや利益より、何よりも優先して取り組むべき重要事項です。この取り組みが不十分であれば、どんな運送会社も事業を継続することができません。このことは大半の運送業経営者が認識されており、日常的に実行されていると思います。しかし、全ての従業員に高いレベルの安全意識を定着させるのは簡単なことではありません。従業員の中には実に様々な考え方の人がおり、会社によっては管理者でさえ必ずしも十分理解しているとはいえないからです。
事故防止対策を進めるためには、第一に「運輸安全マネジメント」の内容を十分理解し、経営者や管理者だけでなく、全ての従業員に浸透させる必要があります。この時、「この活動は従業員を守るために行うもの。あなた方の生命を守るためですよ」と伝えることが大事です。例えば、「国交省に言われたので形を作らなければいけない」「監査で見られるから」という意識がほんの少しでも経営幹部にあれば、それが従業員に伝わり、「面倒くさい」という意識になってしまいます。事故防止対策の効果を出すためには経営者が先頭に立ち、全従業員に実行させることが何より重要です。事故防止の取り組みが奏功し、高い保険優割率を維持している会社は、例外なく経営者と幹部が先頭に立って推進しています。
実行段階では、事故の再発防止対策とともに、事故の発生可能性を未然に発見して対策を打つことも必要です。事故の再発防止対策として最も大切なのは、事故の要因分析です。「なぜ事故が起こったのか」をより深く追求するために「なぜ?」を繰り返していく「なぜなぜ分析」の手法などを使い、表面的な分析にとどまらず、多角的に原因を掘り下げることが重要です。事故前のドライバーの心理面にまで踏み込んだ分析をしてください。分析には特性要因図や時系列的に分析する手法など、いくつかの手法があります。実際に使いやすい手法を何通りか試してみることをお勧めします。大事なことは、通り一遍の事故報告や反省などで済ますことをせず、誰が、いつ、何をするか、具体的な対策を決めて、計画的に実行することです。
また、発生していない事故を未然に防ぐためには、ヒヤリハットの収集分析が不可欠となります。「ヒヤリ」とした場面、「ハッ」とした出来事を集めて全員で共有化すれば、事故を未然に防止する効果が期待できます。これらの情報を活用し、危険予知トレーニングを実施すると、日頃使っている道路を想定した身近な研修となり、現実味が増します。
ところが、ドライバーの中には、ヒヤリハットの情報収集に積極的でない人もいます。例えば、「普段から気をつけているのでハッとしたことはない」と自信を持っている人たちです。しかし、ベテランほど危険な場所を知っているはずです。実は、「情報を一つひとつ書くのが面倒」というのが本音かもしれません。この場合、書かせる情報収集から聴取する方式に転換することで、情報量が格段に増えることがあります。
また、ドライブレコーダーを活用することで、自分でも気が付かなかった危険や運転動作に気が付くことがあります。ドラレコを事故が起こった時の記録用として活用している会社がありますが、ヒヤリハットの収集や危険予知トレーニングの研修用として活用されると導入効果が倍増します。私は運送会社の安全大会に講演などのため参加することがありますが、ある中堅運送会社では事故(積み荷事故を含む)の事例を、担当部署の管理者が全員の前で発表しています。スライドを使って詳細に事故原因を述べ、対策を具体的に行動計画にして発表しています。最後に全員で当日確認した注意点を復唱して終わる、という具合です。
規模の大小に関わらず、このような取り組みを継続していくことがドライバーの安全意識を変えるために大事なのだと思います。
(三井住友海上経営サポートセンター長・中小企業診断士・証券アナリスト・日本物流学会会員・小山雅敬) -
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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