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ブログ・小山 雅敬
第78回:今絶対に必要な管理者教育とは
2016年3月28日
【質問】社員数47人の運送会社です。厳しい経営環境の中で事業を継続するためには、社員教育が大事だと考えております。特に、運送会社の管理者教育で、今最も重要な内容は何でしょうか。
社員教育を重視されているのは大変素晴らしいことです。運送会社では何よりも社員が最大の財産であり、社員の質が事業の勝敗を分ける大きな要素となるからです。特に、社員を指導する管理者の役割はとても重要であり、管理者に求められることは非常に多岐にわたります。
例えば、社員を指導する力、経営者を補佐する力、社内外での折衝力、計数管理する力、職場の問題点を把握し改善に導く力、業績達成力など、求められる項目を挙げればきりがありません。いずれの項目も重要であることに違いはありません。しかし、私がよく相談を受けるトラブル事例から、リスク管理の観点で最重要と考えるものがあります。早急に行うべき管理者教育を挙げるとすれば、次の3項目になります。
最も重要なのは「事故防止と健康管理」に関する教育です。「運送会社では当たり前の内容ではないか」と思われるかもしれません。しかし、徹底して教育を繰り返している会社と、取り組みが不十分な会社の差が最も大きく表れ、また、経営に与える影響が甚大なのがこの項目です。
特に、健康管理に関する教育を徹底していない会社がみられます。取り組みが不十分な会社は早急に教育を実施し、現場に浸透させる必要があります。その際、健康管理の知識を伝えるだけではなく、現状の改善策や日常のチェック項目など、具体的な内容で実施することが必要です。実施した内容は必ず記録に残すとともに、社内に掲示してください。ポスターなども活用しながら継続して注意喚起することが求められます。
次に、緊急性が高いものとして挙げられるのは「労働時間管理」に関する教育です。これはコンプライアンスの側面と、過労による事故防止の側面を併せ持つ内容になります。
私が全国を回っていると、時々「運送業では時間管理は難しい」と公言される経営者がおられます。しかし、実態は時間管理が難しいのではなく、「改善基準告示の制限時間内に収めることが難しい」というケースが大半です。
時間管理は長距離輸送でも、どのような業態の会社であっても実施する必要があります。仮に、基準時間をオーバーする場合であっても管理し記録しなくてはなりません。時間管理をしていない方が重罪という事実を再確認し、管理者に徹底させることが大事です。行政監査を気にするあまり、労務問題が発生した場合に裁判で大きく負ける会社があるという事実を認識する必要があります。
なお、出庫時間などをドライバー任せにしている会社が散見されますが、管理者が出庫時間や休憩時間の指示を明確に出して記録に残すなど、リスク管理の観点で管理ルールを徹底することが求められます。また、これらの教育を実施したら、研修記録を必ず残しておいてください。
三番目に緊急性が高い管理者教育として挙げるのは「ハラスメントとメンタルヘルス」に関する教育です。最近、労務トラブルが頻発している内容です。どの程度の言動がパワハラやセクハラに該当するのか、また精神疾患で労災認定される基準は現在どうなっているのか、など具体的な事例を挙げて教育する必要があります。これは社員を守るためのみならず、会社を守るためにも早急に実施しておきたい教育です。特に、メンタルヘルスに関しては十分教育しておきましょう。
運送会社は長時間労働の会社が多いので、極めてリスクが高い業種であると認識する必要があります。この三つの教育テーマを、リスク管理の観点から優先順位が高いものとして挙げました。これだけで良いということはなく、ぜひ、計画的に幅広い管理者教育を進めていただきたいと思います。
(三井住友海上経営サポートセンター長・中小企業診断士・証券アナリスト・日本物流学会会員・小山雅敬)関連記事
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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