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ブログ・野口 誠一
第193回:自縄自縛のワナ
2008年10月31日
平成が深まりゆくにつれ、順風満帆だったAさんのベビー用品にも陰りが生じていく。むろん、その第1要因はバブル崩壊だが、他にも3つの構造要因があった。
1つは、年々低下していく出生率である。2つ目は、商品サイクルの短命化である。そして3つ目が、量販店の少品種少量販売への転換である。
この3つの構造変化は、いずれも経営基盤をゆるがしかねない危険信号だったが、Aさんはそれを軽視した。軽視の根拠は2つある。1つは、いずれ景気は回復する、回復すればまた成長路線が復活する、という根拠なき確信である。
この確信はAさんだけのものではなかった。当時の経営者の大半に共通する認識だった。大企業も銀行も、いずれ景気が回復し、地価も株価も上昇に転ずると踏んで問題を先送りし、「待ち」の経営に入った。その結果、だらだらと「設備」「雇用」「債務」の3つの過剰を抱え、いたずらに「失われた10年」を演出したのである。
Aさんが危険信号を軽視したもう1つの根拠は、彼の急成長を支えたブランド力と販売力に対する自信である。が、もはやその神通力は通用しない時代に入っていた。
商品サイクルの短命化も、少品種大量販売から多品種少量販売への移行も、すでに不可逆の流れとなっていたのである。
しかし、Aさんはブランドと販売になおもこだわった。同業他社が内部にデザイナーを抱え、懸命に商品の企画力、開発力によって時代の変化に対応しつつあるとき、彼は過去の成功体験から抜け出せなかったのである。
成功体験は自縄自縛に陥りやすい。Aさんもそのワナに落ちた。ブランドと販売に固執するほど売り上げが落ち、対前年比半減が数年続き、やがてメーンバンクにも見放された。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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