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ブログ・野口 誠一
第219回:同族経営の功罪(2)
2009年5月7日
Fさんの独立によって兄弟が分裂し、似たような業態の会社が2つ出来たことは、確実に両社の体力を消耗させていった。
弟によって得意先の7割を引き抜かれた兄は大打撃をこうむったし、兄によって原料の仕入れ先をおさえられた弟は、コストが高い上に品質の悪い原料を使わざるを得ず、最初から苦しい経営を強いられた。
しかし、血が濃ければ濃いほど、1度もつれた感情の糸はとけにくく、ともすればエスカレートしていきがちである。それが骨肉の争いの怖いところである。Fさん兄弟の場合も例外ではなかった。
兄が1袋300円で売り出せば、弟は採算を度外視して250円で売り出す。こうなると、もうビジネスでもなければ経営でもない。完全に意地の張り合いであり、会社のつぶし合いである。
こうした赤字耐久レースに会社の存立などあり得ない。必ずどちらかが倒れるか、ヘタをすれば共倒れとなる。案の定、Fさんの兄は3年後、2億7000万円の負債を抱えて倒産。その1年後、Fさん自身も倒産を余儀なくされた。平成14年7月のことである。
実は、Fさんが八起会へ相談にきたとき、経営はすでに破綻していた。私はやむなく破産をアドバイスした。そのときFさんが発した一言は、いまでも忘れられない。彼は真顔で「兄の会社がつぶれたとき、思わず快哉を叫びました」と言った。正直な気持ちではあろうが、私は衝撃を受けた。
そこに同族経営と骨肉の争いの怖さがある。Fさんにしてみても、兄弟でなかったならば、そこまで憎しみあうことも、つぶし合うこともなかったはずである。
その後、Fさんは八起会会員となり、目下タクシーの運転者をしながら再起を目指している。この記事へのコメント
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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