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ブログ・野口 誠一
第256回:「信用」が稀有を可能に
2010年2月19日
Mさんが八起会へ相談に見えたのは、2度目の不渡りを出した直後である。倒産の後処理を教えてほしいという。私は八起会の顧問弁護士を紹介し、整理に当たってもらった。多少の曲折はあったが、後処理はスムーズにすすんだ。
その最大の理由は、Mさんが街金融やヤミ金融に手を出していなかったことである。大方の経営者は倒産の足音が近づくと、もがきにもがく。そして高利の金に手を出し、最悪の結果を招くケースが少なくない。
その点、Mさんの債権者はまともな金融機関に限られ、スムーズな後処理につながった。といっても倒産は倒産である。彼の会社は潰れ、新築したばかりの自宅は人手に渡り、無一文になったことは言うまでもない。
不幸中の幸いだったのは、奥さんの経営する商事会社が無傷で残ったことである。そこを生活の基盤に、Mさんは半年足らずで元の画商に返り咲いた。稀有のことである。この稀有を可能にしたものは何か。信用である。
Mさんは画家、画商仲間、得意先のどこにも迷惑をかけていない。むしろ、迷惑をかけまいとして、多大の借金をし、会社を潰したのである。そのことは美術界に知れ渡っている。
Mさんの信用は失われるどころか、ますますその厚みを増したと言っていい。それが稀有に結びついたのである。以来足かけ5年、Mさんの経営は前にも増して順風満帆である。
Mさんの再起のケースは、実に多くの教訓を含んでいる。この10年余り、大企業も中小企業も不祥事まみれ、偽装まみれである。そして多くの企業が消えていった。信用よりも金を追求した結果である。その好例は船場吉兆であろう。牛肉の産地偽装では潰れなかったのに、料理の使いまわしが発覚したとたん、倒産を余儀なくされた。信用は法律よりも重いのである。この記事へのコメント
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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