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ブログ・お勧めビジネス書レビュー
奇跡の営業所(森川滋之・著、きこ書房)
2009年7月15日
『奇跡の営業所』は、営業未経験のメンバーで立ち上げられた営業所が、日本一の成績を収めるようになるまでの過程を描いた物語だ。形式こそフィクションだが、「営業のプロ」として営業のコンサルティングを手がけている吉見範一氏の実体験がモデルとなっている。
森川氏
著者の森川滋之氏は、システムインテグレーターで営業企画をしていた経歴の持ち主。システムは、「提案」の部分はSE(システムエンジニア)が担当することが多く、新規顧客との「接点」を作ることに特化した営業の仕事は、非常に難しいものだったという。同著に出てくる営業所が扱っているのは「マイライン」という差別化の難しい商材であり、顧客接点を持つ難しさという意味では、似た要素があると言える。
「自分が営業に関わっている頃は、『能力のある人間でないと売れないのではないか』という思い込みがあった。しかし、『奇跡の営業所』に出てくる営業メンバーに、特別な人はいない。確かに営業として売れるかどうかは属人的な要素もあるが、『仕組みで売る』ということを吉見さんは教えてくれた」
物語に出てくるメンバーは、法人営業が怖いと言うシングルマザー、日本語が完璧でないクォーター、プログラマー出身者、英企業にばかり行きたがる起業経験者、根性のありそうな体育会出身者…と、全員が営業シロウトの、完全なる「寄せ集め」所帯。しかし、営業所長である主人公の和人(モデルは吉見氏)は、「営業は根性や経験ではない」という信念のもと、徐々に「売れる」組織へと育てていく。
相手に興味を持たせるための会話の運び方や、資料作成のコツなど、「テクニック」的なものの紹介もある。しかし、その裏側にあるのは「あなた(=顧客)のことをこんなにも考えていますよ」という「営業の本質」的な部分だ。
「たとえば資料でも、時間はかかってもビックリするほど詳しい内容のものを提出されたら心を動かされる。『感動でものを売る』ことは可能。特に、どこのものを使ってもそんなに変わりがないという『横並び』の商品こそ、『ウチのことをどれだけ知ってくれているか』ということが重要になってくるのではないか」
また、同著は、営業のノウハウに加え、チームビルディングについても学ぶことが多い。和人の営業所は成績がなかなか上がらず、ついに営業所消滅の危機を迎えるのだが、バラバラなバックボーンを持つメンバーたちがいつしか団結し危機を乗り越えていく…その過程は実に感動的だ。
「メンバーが『みんなのために働くのがうれしい』、『仕事を通じて自己実現を果たしたい』と思える職場は強い。これも、和人が自分のやり方を押し付けず、メンバーを信じて『仕組みづくり』のほうに徹したから実現したこと」
後半に解説ページも設けられているが、物語形式ゆえ、「すぐに使えるテクニック」を学びたい人には向かない著作かもしれない。しかし、「営業の本質」、「誰かと一緒に働くこと」についてじっくり考えたい人にとっては、学ぶところの多い本となるだろう。
▼「奇跡の営業所」森川滋之・著、きこ書房、1260円(税込)
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