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    面白法人カヤック会社案内(柳澤大輔・著、プレジデント社)

    2009年7月22日

     
     
     

     「面白法人」を名乗る「面白い会社」が鎌倉にある。Web制作サービスを手がけるカヤックは、その興味深い取り組みで業界内外から注目を集める存在である。


     「経営理念」にはじまり、「行動指針」や「経営戦略」、「採用」まで―同社のことを分かりやすくまとめたのが、その名も『面白法人カヤック会社案内』だ。有名漫画家の装画が配されたカラフルな表紙デザインは、とても「ビジネス書」には見えない。しかし、「自分たちが楽しく働くことでクライアントや社会にも評価される」ということを教えてくれる同著は、経営者にとっても、従業員として働く側にとっても、非常に学びの多い1冊と言える。
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    柳澤大輔氏
     まず同社の「面白さ」を紹介すると、(1)給料日前にサイコロを振り、その出目でその月の支給額が決まる「サイコロ給」(基本給に「基本給×サイコロの出目%」が加算される)、(2)1年に数か月間、海外にオフィスを設け、社員数名を送り込んでそこで仕事をしてもらう「旅する支社」(これまではハワイやイタリアに開設)、(3)都心から1時間以上もかかる場所にある「鎌倉本社」、(4)漫画風に描かれた名刺―など、これでもまだほんの一部だ。
     各項目の由来や目的についての説明は同著に譲るが、これらを発案し、そして本当に実行してきた動機として、同著の著者で同社代表の一人である柳澤大輔氏は「やりたいからやっただけ」とあっさり言い切る。たとえば(2)の「旅する支社」。「全世界からアクセス可能」というWebの特性を活かした制度だが、ひとくちに「海外で社員を働かせる」と言っても、そこには数々のハードルが存在する。
    「トラブルも毎回起こるし、誘惑も多い。費用もかかるが、それで得られる『効果』を見越してやるというよりも、やはり『やりたいからやる』、それだけ。『できるかどうか』ではない」
     中には、同社のやっていることを「Webという『特殊な業界』だからできることだ」と見る人もいる。
    「確かにその側面はある。しかし、Web業界ならではの辛さがあるのも事実だ。たとえば、仕事もしようと思えば二十四時間できてしまうし、サーバがダウンすれば夜中に呼び出されることもある。たとえば農業には農業の辛さがあるが、それでも『採れたての野菜が食べられて幸せ』と感じているかもしれない。どこの業界にも良いところ・辛いところがあるのは同じこと」
     取材当日も「さっきまで海に行っていた」という同氏。もちろん他のメンバーがそれをとがめるようなこともないし、従業員が行ってもかまわないという。
    「もちろん、入社したばかりでまだ一人で結果を出せないような人が行くようなことは許されない。そこは個人の『良識』に任せている。『ここまでやったら行って良いよ』というような、ルールでは縛りたくない。ルールを作ると、『なんでルールが必要なのか』を忘れて、いつしか『ルールの範疇に入っていれば良いのだろう』に意識が変わり、そこで思考が停止してしまう。大切なのは一人ひとりが『自分ルール』を持つこと」
     とはいえ、けっして「『自分』がどう働きたいか」に固執しているのではない。行動指針には「『何をするか』より『誰とするか』」とあり、同社では、「一緒に働く仲間」の存在が非常に重要なものとして位置づけられている。そして、視線の先には当然、クライアントがあり、社会がある。同社の経営理念は「つくる人を増やす」。「つくること」を楽しむ人が増えることが、クライアントや社会に対して良いサービスを提供することにつながっていく。
    「クライアントに対しては、『一緒に仕事をして楽しい』と思われたい。クライアント、サイトユーザー、そしてわれわれと、全員がハッピーになること。このバランスはなかなか難しいが、『自分たちだけ』という考えにならないよう気をつけている」
     知名度も上がり、新卒採用には優秀な人材が殺到するようになった。あと3年は人員を増やしていく予定だという。
    「人数が増えればそれだけ、自分で考える機会も少なくなっていく。それでも、一人ひとりが『自分がつくっている』と思える会社でありたい。どうやったらそれが可能になるのかを、これから検証していく」
     将来のビジョンを問うと、「みんなが笑顔でいられる会社」という答え。さらに、「他にはない会社、独創的な会社でありたい」と付け加える。なお、同社は非上場ながら、「財務情報は企業の通信簿」という考えから、財務状況を開示。非常に好調に推移している様子が見て取れるが、「自分たちの目標数字を達成できなくなったら、収支が成り立たなくなったら、それは社会に貢献していないということ。その時には潔く『解散』しようと思う」という同著内の記述に、経営者としての決意が見える。
     「やりたいことをやる」ことが、企業活動として利益を生み出す循環の原動力になっている―それを実行できている会社があることを覚えておきたい。
    ▼「面白法人カヤック会社案内」柳澤大輔・著、プレジデント社、1429円(税別)
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