-
ブログ・高橋 聡
第217回:令和時代の運送業経営 労務トラブル実例編(10)
2022年3月4日
【労務トラブル実事例編】⑩
「コロナ禍で頑張る運送業経営者を応援します!」というシリーズで新型コロナウィルス影響の下で「令和」時代の運送業経営者が進むべき方向性、知っておくべき人事労務関連の知識・情報をお伝えしています。
今回も前回に続き、運送会社で実際に発生した「労務トラブル実事例」とその対応策について説明してまいります。
1.労務トラブル実事例
(1)トラブル内容
埼玉県の運送会社A社(社員数150人)は主として建設機器メーカー関連の業務および、産廃系業務を行う運送会社で非常に歴史のある会社。給与制度はシンプルで最低賃金を基準とした基本給および、業績給(運賃収入×一定率の計算で求める割増賃金額)という形式で支給していました。例えば、ある月に運賃収入(例:4トン車80万円)に一定率(例:17%)を掛ける計算方法で求めた業績給(割増賃金額)は(13.6万円)となり、基本給(例:16・5万円)と合わせて(30.1万円)が給与額という計算となります。
同社では過去20年間は同方式で給与を支給しており、何度か労基署などの調査を受けたことがありますが、特段指摘はなく、ドライバーとの間でも給与計算に関する大きなトラブルはありませんでした。
ある日、ドライバーが退職後に成功報酬型の弁護士に相談し、内容証明郵便が届きました。内容証明には「私は労働者○△から委任を受けた弁護士□×と申します。給与制度に残業代の未払いが発生している可能性があるため、デジタコデータ・日報・給与台帳・就業規則などを提出してほしい。提出がない場合、提訴などの法的手続きを行います」と記載されていて、経営者はこれまでの調査で問題が無かったので、どういうことか理解できず、非常に驚いています。
(2)事例のポイント
本事例の給与制度に関する問題点としては、①割増賃金を運賃収入×一定率という歩合基準で計算していること②割増賃金に時間外・深夜・休日という区分がないことがあげられます。①の歩合計算基準での割増賃金計算に関しては、「割増賃金額と実際の時間外労働時間数」に関し、残業時間の長短と割増賃金額が連動しない方式になっていることが問題です。実際の割増賃金額を計算し、「差額」を精算する方式であれば許容される可能性がありますが、係争を未然に防ぐという観点でお勧めできない方式です。②の時間外・深夜・休日手当の区分に関しては、こちらも実時間数を計測し、支払い額との差額を清算する仕組みが必要となります。労基署などの調査で問題が無かったからといって係争に巻き込まれないとは限らないので注意が必要です。2.対応策
係争を避けるため、残業代は「残業時間数と連動させる」ことが必要です。本事例の場合、拘束時間から休憩を控除し、法定労働時間数を差し引いた時間を労働時間とし、1日8時間・週40時間超過時間数「時間外時間数」として把握、さらに午後10時~翌朝5時の「深夜時間数」および週1回の休日に労働した「休日時間数」を把握、把握した時間数を基準に「基本給」と「出来高歩合給」それぞれに計算することが必要となります。歩合給計算基準で残業代を支払う手法は係争を防ぐ観点でお勧めできません。
関連記事
-
-
-
-
筆者紹介
高橋 聡
保険サービスシステム社会保険労務士法人
社会保険労務士 中小企業診断士
1500社以上の運送会社からの経営相談・社員研修を実施。
トラック協会、運輸事業協同組合等講演多数。 -
「ブログ・高橋 聡」の 月別記事一覧
-
「ブログ・高橋 聡」の新着記事
-
物流メルマガ