埼玉県の運送事業者は先日、声が小さく元気がなさそうな５０歳の応募者を面接した。

人手不足で困っていたこと、そして性格的に悪い人ではないと感じたことで、採用を決めたという同社社長。

そのドライバーには、口数が少なく、あいさつもしない荷主担当者が仕切る現場を任せたという。

同社では、その仕事をやりたがるドライバーが他におらず苦肉の策。「１か月も持たないで辞めるのではないか」という心配の声もあったという。

しかし、そのドライバーは何事もなく配送を完了し帰ってくるだけでなく、日に日に顔色もよくなり、口数も増えていった。

同社長が聞くと、偏屈な荷主担当者に気に入られたようで、あいさつどころか、忙しい時には、積み込みを手伝ってくれたりするのだという。

その現場には二度と行きたくないと言い出すのが普通だった同社の経験上、考えられないことだったが、ドライバーは毎日楽しそうに仕事に向かう。

同社長が理由を探ると、そのドライバーは、毎日、その荷主担当者に荷物の積み込みが完了すると報告に行き、「行ってきます」と声をかけていた。荷主担当者も最初は怪訝な様子だったが、徐々に打ち解け、そのドライバーだけに気を許すようになったという。

辞めるだろうと思っていた人が、実は最もその仕事に適していたということで、同社長は人を見る目の難しさを再認識している。

「今回の一件で、もしかすると、その人に合った仕事というものが必ずあるのかもしれないと感じるようになった」と話す同社長。

「一度の面接だけで人を選ぶことは到底できない。採用する側も、もっと視野を広く持たないといけないのかもしれない」と、自戒を込めて話す。