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物流ニュース
アンガーマネジメントで良好な人間関係を
2017年9月15日
今年も新入社員を迎える季節がやって来た。超売り手市場のなか、「せっかく採用できた従業員には長く勤めてもらいたい」のは、どの経営者も同じ思いだろうが、荷主からの無理な注文や指示に怒って口論になり、その結果、仕事が切られ、ドライバーも退社してしまうというケースは、よく耳にする話だ。
人手不足による過重労働、コンプライアンス順守のための方針転換、環境規制への対応など、経営者・ドライバーともに、強いストレスにさらされている中、注目されるのが、1970年代にアメリカで開発された怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」だ。
これを学ぶことで自身の怒りを理解し、感情をコントロールしたり、ポジティブな考えを生み出すことが可能となり、周囲との良好な人間関係を成立させることができるという。運送業界でも、この研修を企画するト協の支部や青年部が増えてきている。
同トレーニングは、DVや差別、軽犯罪者に対する矯正プログラムとして確立され、現在では、全米の教育機関や企業で導入が進み、教育や職場環境の改善、学習や業務パフォーマンス向上を目的に活用されている。
その重要性は日本でも認められ始めており、2011年には、世界最大組織であるナショナルアンガーマネジメント協会の日本法人として、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会(東京都港区)が設立されている。
同協会の安藤俊介代表理事は「アンガーマネジメント」について、「怒らなくなる、イライラしなくなるというわけではない。必要なことには上手に怒り、怒らなくて良いことには怒らなくなるためのスキル」と解説する。さらに、「我々はマネジメントを『後悔しないこと』と翻訳している」と説明。「怒っても『こんなことで怒らなければ良かった』と後悔するし、怒らなくても『やっぱり言っておけば良かった』と、どちらにしても後悔する。怒ること自体は構わないが、『怒りという感情』で後悔しないように、そのための考え方とテクニックを学ぶことは大切」と付け加える。
アンガーマネジメントの考え方で重要なのは、カッとなったときにどうすれば良いかという「衝動のコントロール」そもそも「怒り」について、どう考えれば良いかという「思考のコントロール」、実際に怒った際に、どう動けば良いかという「行動のコントロール」の三つ。
また、マネジメント力を付けるためになすべきこととして「体質改善」と「対処術」がある。前者は長期的なアプローチで「怒りにくい体質」にしていくのが目的。具体的なテクニックとして、怒りを記録する「アンガーログ」が推奨されている。「怒りの感情をコントロールできないのは、『なぜ怒ったのか』を忘れてしまうため。忘れてしまうから、毎回似たようなことで怒ってしまう。野球でも、同じミスを何度もするのは、ミスの仕方を忘れてしまっているから。ミスがなぜ起こるのか、そしてミスをしないようにどうすれば良いのかを考えることが重要。アンガーマネジメントも同じで、なぜ怒るのか、どうすれば怒らなくなるのかを把握できるようになるには、記録しておくのが良い」。フォーマットは特になく、「とにかく、記録することが大切」だという。
後者は、さまざまなテクニックを駆使して、怒りを素早く処理すること。代表的なテクニックに、怒りを感じた時に、人の怒りのピーク時間である「6秒」をカウントするというものがある。
これらの考え方やテクニックを体系的に伝えるべく、同協会では、さまざまな講座を開設している。受講者は多種多様で、「マネジメント層とは限らず、一般社員はもちろん、子育てで悩んでいる母親や若い方の受講も多い」という。
また、講座開設だけでなく、「ファシリテーター」や「インストラクター」と呼ばれる講師の育成にも力を入れ、「アンガーマネジメント」のさらなる面的普及を展望している。
個人だけでなく企業や団体向けの研修も実施しており、大手商社やタクシー会社が社内研修として導入。ある介護施設では、「アンガーログ」を全職員が付けるようになったところ、離職率がゼロになったという実績も。
研修は何人でも受講可能だが、「多いのは30〜50人規模。実技の内容があったほうが定着しやすい。当協会に相談いただければ、適切な講師を派遣する」
プログラムは5歳から受けられる。「本来は子どものうちから受けて、身につけた方が良いスキル」だが、「思い立った時が受け時。あとは、野球選手が毎日バットを振るように、コツコツと続けてほしい」と同代表。「アンガーログに怒りを記録していくうちに、『自分はいつも、これで怒っている』というパターンに気づく人は多い」とし、「その結果、客観的に自分を見て、感情をコントロールできるようになる」と改めて効果を訴える。
■茨城乳配 吉川国之副社長「自身で受講、管理職を派遣」
「アンガーマネジメント」に関するセミナーの受講経験を持つ茨城乳配(茨城県水戸市)の吉川国之副社長は、「個人的には受講して良かったと感じている。『怒り』という感情を分析する機会からは多くの気づきをもらえた。社員の育成でも参考になるものだった」と振り返る。
後日、同研修に2人の管理職を派遣したという吉川氏。「今後も、新たに管理職に昇格する人材には受講させたい」という。「気が短い社員に『怒るな』と注意するだけでは結果は変わらない。どうすれば感情を抑えられるかを論理的に学び、理解してもらいたい」とし、「業務中に怒りを覚えたことを記録して回数を減らすなど、定量的な目標設定ができるようになることは、社員もやるべきことが明確になり行動しやすくなるのではないか」と語る。
また、「現場でのイライラは必ず発生するもので、それが交通事故や労災につながる可能性は低くはないはず。将来的には、管理職だけでなく、輸配送を担当する社員にも受講させたい」とも。
■船井総研 橋本直行氏「『フロー理論』習得を」
船井総研で上席コンサルタントを務める橋本直行氏は、「物流の現場職の方は、ルーティン業務の割合が比較的高い中で、毎日一定のパフォーマンスを上げなければならないという『プロの仕事』が求められており、『心身を良い状態で安定させておく』ことが、とても重要になる」と指摘する。
橋本氏が勧めるのは、「スポーツドクターの辻秀一先生が提唱されている『フロー理論』を生活に採り入れる」こと。「この理論は、自分をご機嫌にするスキルの習得法で、好ましくない外的な要因に対して、『揺らがず、囚われない』ようになるスキルを身に付ける方法を説いている。『怒り』というのは、必ず何かの事象があって起こるもので、その事象に対して、心が揺らがず、囚わなければ、抑えることができる」という。「辻先生の本は、たいへん分かりやすいので、ぜひ読んでみてほしい」
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