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物流ニュース
台風19号浸水被害 時間経過とともに生じる問題
2019年10月31日
東日本の広範囲の地域で、河川100か所以上の堤防が決壊し、延べ230平方キロメートルの地域が浸水する事態となった、台風19号から約2週間。国交省によると23日現在、102のトラック事業者の営業所と車両の浸水被害が確認されている。目の前の汚泥処理などへの具体的対応から、次第に損失の算定など経済的問題にも直面することになるこの時期。水害が深刻だったという面で共通している、昨年の台風21号によるトラックの被害事例を再度検証しながら、この1年間の動きを振り返りたい。
「いまだにトラックの納車待ちです」。昨年9月4日の台風21号で、高潮による冠水被害を受けた、神戸市内のトラック事業者。被災から丸1年経ったいまも、トラックがそろわないという。
この台風による、トラック事業者への被害で著しかったのは車両に対するものだった。国交省によると近畿管内の車両被害は、トラック事業者だけで浸水が518台、破損が1525台に上った。徳島県でも浸水・破損車両が9台あった。
「何をしてくれるわけでもない。ト協から被害に関する問い合わせが当時あったが、回答しなかった」。食品などを輸送するトラック事業者は、実際にはトラックの冠水被害があったが、回答していない。こうした無回答などの数値は国交省発表の被害数には含まれていない。 今回、東日本を襲った台風19号によるトラックへの被害については、国交省によるまとめが今のところない。もっとも17日、「被災した貨物自動車運送事業者においては、被災地内における輸送力の確保に支障をきたすおそれが生じている」などとして、国交省自動車局長名で通達を出している状態だ。「レンタカーによる増車を可能にする」(同通達)など輸送力供給に万全を期すという。
被災後、1か月程度経った頃に直面するかもしれない問題──。そのころ、経済的な部分で直接に大きな影響を耳にしたのは、トラックをリースで調達し、車両保険に入っていないケースだった。
神戸市の人工島・六甲アイランドの保有車庫で、大型トラックを複数台冠水させてしまったトラック事業者。被災から数週間で整備会社から、「修理はできても保障ができない」と告げられ、その後、冠水トラックに所有権を持つそれぞれのリース会社に伝えた。
2つのリース会社からやってきたのは、「約定どおり、一括現金で残債(危険負担金)を支払ってください」の通告だった。1社からは被災後1か月で、もう1社からは被災から3か月以上経った時点で、それぞれ通告された。最初のリース会社は、通告の撤回を申し出てきたものの、トラック事業者は2社ともの通告にあえて応じる形で一括返済した。
トラック事業者は、「資金調達の余力があったから、ウチのことはいい。しかし、被災して、ただでさえ混乱しているときに、一括返済を求めるのはいかがか。今後の問題だ」と当時、本紙に話した。
リース会社2社が加盟している「リース事業協会」(東京都千代田区)は今年1月、本紙取材に対し、自然災害が多発していることを踏まえ、「傘下各社の順守事項を定めたガイドラインを作ることを検討する」と答えている。
車両のリース契約は通常、「車両の滅失、毀損」の条項を契約約定に盛り込む。そのなかで車両が修理不能になったときも、「危険負担金(リースの残債)を一括現金により乙(リース会社)に支払います」といった内容を、契約上ではリースユーザーは呑んでいる状態だ。
また、条項には車両保険に入ることを原則とする一文もあるが、実際の契約では「保険加入の話しすらなかった」(トラック事業者)という。
前出の「ガイドライン」について、リース事業協会は今年5月、「自然災害発生時におけるリース会社のユーザー対応等に関するガイドライン」をまとめている。ガイドラインでは「自然災害により被災した中小企業小規模事業者からのリース料の支払猶予要請やリース期間延長の相談、災害によりリース物件が滅失した場合(中略)、支払い条件の変更等の柔軟かつ適切な対応を行う」などとし、加盟リース会社に対して一括請求などをしないよう求めている。
また車両などの保険に関しては、「リース契約締結時にリース物件に付保する保険に関する説明に努める」とし、「保険加入の話しすらなかった」などといった事例が出ないよう、要請している。
ガイドラインは、「被災地の復興・再活性化に資する」ことを目的として作成されたが、傘下各社の行動を縛る力はガイドラインにはない。
法的拘束力がないのは、リース事業を所管する経済産業省も同じだ。経産省はガイドラインと同様の通達を、自然災害があるたびに協会に対して出しているが、それでも各社の足並みはそろわない。危険負担金(リース残債の一括返済)に縛りをかけるような通達すら出していないのが現状だ。
こうした指摘に経産省は、「リース契約は特殊な契約。そうした(危険負担金に縛りをかけない)前提で成り立っており、契約を縛るようなお願いはしていない」(消費経済企画室)と答えるに留まる。
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