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    運送業は請負か委託か 法的位置づけ探る

    2012年3月2日

     
     
     

    truck_0305.jpg 「運送業は、荷主から仕事を請け負うから下請け構造がはびこる。請負ではなく委託になれば、業界のほとんどの問題が解決する」。ある運送事業者とそんな話をした。下請けの言葉が醸し出す従属性のひびきや、実際にそうした行為が蔓延する結果、導き出されている低生産性の日常が、「委託」に衣替えするだけで解消されるとしたら、実現可能性を探らない手はない。現在進行中の民法改正の作業や現行商法、その他の法の中で規定されている「委託」の定義と運送業の現実を照らし合わせてみる。



     この事業者は営業ナンバーのトラックやバイクも保有しながら、産業廃棄物の収集運搬や特定信書便の事業も展開している。事業者は、「産廃や信書便の基となっている郵便法には委託の文言が並んでいる。簡単には再委託することはできない」と話す。一方で運送業は、直取引の荷主などごくわずかで、トラックを持たない「運送会社」が一括して業務を受注し、下請けへトラックを走らせる構造へのシフトが加速していることを日々感じているという。

     実態面でそのように語られる現象が、法的には、どのような位置づけになっているのだろうか。請負と委託については、民法のなかの債権法に個別に規定されている。

     請負は、仕事の完成を約束した請負人に注文者が報酬を支払う形態(民法632条)だとされる。運送業がこの請負に該当するとは民法上に規定はない。

     一方の委託は民法上、「委任」の語句で定義づけされる。委任を受けた者(受任者)が委任の本旨にしたがって「善良な管理注意義務」を負いながら事務を処理する(同644条)。この注意義務は一般に、委任契約の基礎となる当事者間の信頼関係に基づくものと解されている。

     民法上、荷主と運送事業者との運送契約は、仕事の完成という観点に力点を置けば請負になり、信頼関係に力点を置けば委託(委任)になる。つまり、運送請負契約もあれば、運送委託契約もあるということだ。

     現在、法務大臣の諮問機関「法制審議会」では、民法(債権関係)部会が設置され、2009年に「国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要がある」との趣旨で諮問がなされた。現在も審議中だ。

     「運送業はサービス業」とは、業界関係者がよく言う言葉だが、サービス業(役務提供契約)も審議会の重要な論点だ。審議委員を務める民法学者で、現在、法務省経済関係民刑基本法整備推進本部参与の内田貴氏は近著「民法改正」(ちくま新書)のなかで次のように指摘する。「日本の民法典が典型的な契約として想定しているのは、実は不動産業です」。つまり、公布から115年が経過している民法が、複雑な経済社会に追いついていないとの認識が法改正の根底にある。

     また同氏は、「サービス契約(役務提供契約)という新たな契約類型を加えてはどうか。少なくともサービス契約に適用可能な条文を何らかの形で用意する必要があるのではないか、といったことが議論されています」とも述べ、複雑になった経済を反映する民法のあり方を審議会で模索中だとしている。

     現在、民法の中で運送業について規定していない項目について、現行商法は502条で運送を「商行為」だと規定し、569条以下でも細かく規定している。現行の貨物自動車運送事業法は商法を実務面から書き換えたとされる。

     運送は現在の法に規定のないサービス業なのか、商法に根差した従来型の運送業なのか。「運送は請負なのか委託なのか」といった問題提起は、そうしたところに行き着く。

     だが、現在の下請け構造が既存の運送事業者にとって厳しすぎるから、産廃や信書便のような委託にしては、といった議論は、業界のエゴと取られかねない。委託には、事業そのものを社会的に支援する側面があることから、そこに携わる事業者をも保護してしまう側面があるからだ。他の法との整合性や外部社会との関係性においてとらえ直す必要がありそうだ。(西口訓生)

     
     
     
     
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