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精神疾患者の処遇 健康起因の就労トラブル
2014年4月7日
安全・安心の輸送を確保することは、もはやトラック業界の第一使命であり、そのための労務管理徹底も例外ではない。法令順守が叫ばれる中、会社を守るため、業務に支障をきたすドライバーの処遇に頭を悩ます事業者が増加している。神奈川県の事業者は、ドライバーの採用にあたり、初任運転者講習や適性診断など、安全に対する取り組みを行っていた。しかし、採用したドライバーに問題が生じ、配置転換を促したところ、退職することで一時は合意が得られたという。ところが、後になって合意を撤回、不当解雇を指摘した上で慰謝料を請求してきた。争いは法廷に持ち込まれたが、結果的に和解が成立したことで事なきを得たものの、今回の労使トラブルで同社社長は、ドライバー管理の難しさを身を持って感じている。
陸上・海上コンテナを取り扱う神奈川県の事業者は、数年前に大型のドライバーを募集し、Aさんを採用した。採用面接時、病気の有無や服用薬の確認は口頭で行い、就業前に初任運転者講習・適性診断を受けさせ、異常はなかったため乗務を許可した。にもかかわらず、Aさんは試用期間中に何度も軽微な事故を起こした。おまけに話も聞かず、「メモをとりなさい」と言ったそばから実行しなかったり、添乗指導の際に左に曲がるよう指示しても右折してしまうなど、理解し難い行動が見受けられた。また、Aさんは3、4件の事故を隠蔽していた。「業務中の事故のため、お金は会社持ちだろう」と勝手に判断し、警察に電話することも、会社に相談することもなく、同社は請求書が送られてきて、初めてその事実に気付いたという。同社社長が気がかりに思っていたところ、他のドライバーから、「Aさんは6年前から安定剤を飲んでいる」との報告を受ける。同社社長がAさんに話を聞くと、精神疾患が判明。しかも、薬を飲まないと眠れない状態にまでなっていた。
そのため、運行管理者と同社社長は、Aさんに部署の変更を言い渡す。それに対し「大型ドライバーとして採用されたので受け入れられない」と主張するAさん。その後、同社社長が根気強く状況を説明した結果、Aさんは納得し、自主退職という形をとることになった。
しかし、Aさんの奥さんの言葉で事態は急変する。「うちの人は病気ではない。仕事は続けられる。これは不当解雇ではないのか」と同社に抗議の電話を入れてきたのだ。Aさんの了承を得たことを説明したが、埒が明かないので、同社社長は弁護士に委託する。
裁判で、医師からカルテが提出され、精神疾患で抗うつ薬を服用していることが実証された。しかもAさんは、前の会社で妄言を発するなどで労働裁判になっている。さらに、同社は採用時に職務規定に署名をもらい、同意を得ていた。それにも関わらずAさん側は、「過重労働で精神疾患がひどくなった」と同社に慰謝料を請求してきた。
裁判の争点には、健康状態の把握も挙がった。Aさんは面接時に健康状態について聞かれたかという問いに対し「会社から積極的には聞かれていない」と回答。A社は「たしかに聞いた」と主張するが、口頭のみできちんと書面に残していなかった。雇い入れ時の健康診断についても「自分の言うことを鵜呑みにして、このような事態となった。それで解雇というのはお門違いだ」という言い分である。理不尽に感じるが、法令上、企業には雇い入れ時に健康診断を受けさせる義務があるため、法令違反であることに変わりはない。
トラック業界は人の出入りが激しいといわれる。中には失業保険が欲しいがために試用期間中に辞める人もおり、健康診断が無駄になるケースも多く、前の会社で受診した際の診断書を活用している事業者も少なくない。また、医師にうつ病について調べてもらうよう進言しない限り、通常の健康診断ではわからない。しかも、うつ病の検査をするのには本人の同意が必要だ。「本人が拒否すればそこで終わり。それで万一、事故でも起きれば会社の責任になる」と同社社長は苦しい胸の内を打ち明ける。
法治国家の日本では、類似した判例が、その後の判決に影響しやすく、労働者側に有利な場合が多いという。唯一の救いは、「自分に都合の悪いことは黙っていた。嘘をついていた」とAさんが自ら告白したこと。裁判長も長距離ドライバーが拘束時間を守りにくい状況下に置かれていることを理解した上で、「判決が出れば多額の慰謝料を支払うことになる。それを避けたい」と和解案を提示。最終的に、同社は基本給の1か月半分を支払うだけで済んだ。
今回は事業者の負担が軽く、非常にまれなケースで、「試用期間中に異変に気付いたので、裁判所も解雇は無効ではないと認めやすかったのだろう」と同社の顧問弁護士は指摘している。
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