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ブログ・小山 雅敬
第188回:M&Aか経営継続か判断の分岐点
2020年8月4日
【質問】中小運送会社の経営者です。子どもがいないため、将来の後継者はまだ決まっていません。最近、人手不足に加えて中核社員の退社が続き、事業の先行きに大きな不安を感じています。先々代から続いた会社を継続したい思いと経営の先行きが見えない焦りが交錯し、どのように判断してよいか迷っています。
最近の数年間、中小運送会社から事業の継続に関する相談が増えています。M&Aに関する相談も多くなりました。この背景には①後継者不在②人手不足や退職者増加による事業の先行き不安③相次ぐ法改正などの経営環境変化に対する不安感④M&Aに対する抵抗感の減少、などの要因があると思います。
事業の継続に関する判断には、まず現状の経営状態の分析が必要になります。荷主の状況と取引関係、将来の見通し、現有資産の状況、社員の質、財務状況など多角的に聴取し、その会社の強みと弱みを分析します。人手不足については人材確保対策の見直しで改善する余地がありますので、給与や休日、福利厚生など労働条件を確認し改善策を検討します。収益の改善策は経営戦略の見直しも含めて検討します。これらの分析から今後の経営改善が見込める場合は事業の継続を第一義として検討することになります。
ただし、経営者の事業意欲が著しく減退している場合、思考が事業撤退に傾いている場合があります。そうなると、経営を改善して立て直そうとしても、前向きに取り組む意欲が湧かないことがあります。経営者の気持ちが最も重要です。
特に後継者が不在という事実は経営の継続をあきらめる最大の要素になっています。この場合、幹部社員への継承も考えられますが、候補者がいても株式買い取り資金の問題などがあり、なかなかうまく解決しません。
一方、M&Aで会社の経営を中堅企業に任せる選択肢があります。経営者自身は経営から身を引くことになりますが、現在の荷主や従業員に不安感を与えず、従前の取引関係を維持したままで継続することができます。以前は、企業売却のマイナスイメージがあり、躊躇する経営者も多かったのですが、現在はM&Aがかなり一般的になり、抵抗感が薄れてきました。仮にM&Aで事業を売却する場合は、どの程度の売却額が見込まれるのか、売却後の事業運営はどうなるのか、などの情報を掴んでおくことは、決して後ろ向きのことではありません。事業意欲が減退し経営が委縮してくると、財務状態が悪化し、廃業以外の選択肢がなくなることもあります。まだ体力があるうちに、将来の方向性を検討しておくことが重要です。判断は余力があるうちに行う必要があります。
(コヤマ経営代表 中小企業診断士・日本物流学会会員・小山雅敬)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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