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ブログ・小山 雅敬
194回:先行きが不安定な時代の経営のポイント
2020年10月27日
【質問】新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大し、経済環境がこの数か月で激変しました。近い将来すら見通せない不安定な時代に、運送業の経営を安定的に維持するための心構えやポイントを教えてください。
元来、運送業は景気の波や国際情勢の変化など外部環境に左右されやすい業種です。景気の上昇時には半年遅れでプラスの恩恵を受け、景気後退の局面では半年前からマイナスの影響を強く受けます。運送業の経営者は、多少景気が上向き経営が好転しても、「それが当たり前に続くことはない」と常に意識しておくことが大事です。
現在、新型ウイルスの猛威で経済が激変していますが、これも過去に経験した不安定化の一つと考えるべきです。運送業の経営安定化を考える時には、財務体質が重要であり、固定費と変動費のウェイトがポイントになります。景気の波により売り上げが増減するとき、固定費のウェイトが大きい会社ほど利益の変動幅が過大になり、経営が不安定化します。景気の上昇局面では高収益の恩恵を享受できますが、景気の後退局面では、想定を超える赤字に陥り、急速に経営悪化を招きます。
一方、固定費のウェイトが小さい会社の場合は、売り上げの増減による利益への影響は小幅にとどまります。景気上昇局面では多少旨味が少なくなりますが、景気後退局面での急速な経営悪化は避けることができ、景気の波による経営の不安定さは軽減されます。
固定費過大で失敗した運送会社の例を挙げてみます。物流二法施行(1990年)当時、ある地方の中堅運送会社がドライバー確保のため、本社を改装し、賃金を上げて固定給化しました。ところが、その直後から景気が後退し、経営が悪化しました。メイン取引銀行から人件費削減による収益改善を融資継続の条件として提示され、従業員に協力を依頼しました。しかし、一旦上昇して固定給化した賃金を見直すことに従業員が反対し、何度も話し合いを持ちましたが、同意を得ることができず、ついにその会社は経営の継続を断念しました。賃金は下方硬直性があり、一旦上げた賃金を下げることはできません。経営の安定化を考えれば、固定給による賃上げ(=固定費化)ではなく、業績給による賃金増額(=変動費化)の判断もあったかと思います。また、強い運送会社は本社の建物(=固定費)に金を使いません。本社は質素な事務所にして、現場に金を使います。固定費のウェイトを下げてフレキシブルな経営体質を志向することも不安定な時代の経営戦略と言えるでしょう。
(コヤマ経営代表 中小企業診断士・日本物流学会会員・小山雅敬)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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