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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(207)逃げずに立ち向かえ〈事例A〉
2018年7月16日
〈押し寄せる要求〉
A社長は、うろたえるばかりである。だれに相談したらいいか、とっさに思い浮かばない。とりあえず経理を担当していた妻に相談するが、案は浮かばない。今までひたすら働いてきた。経営者とは名ばかりで、人がいなければ車にも乗る。「団体交渉」を開いても、どうしていいか分からない。賃金をカットしたのは、そうするしかなかったからだ。
自らの役員報酬も月100万円から50万円に減額している。それなのにいきなり「労働組合結成」とは何たることだ。胸元に刃物を突き付けられているようなものだ。組合に入った乗務員10人は、いずれも10年以上の勤務経験がある。分会長になった者は、入社した時は住む家もなかった。そこで、アパートを借りて会社の寮として住み込ませ、支度金として30万円を渡したこともあった。その男が分会長である。「分会要求書」には、ずらっと要求が並んでいる。
「要求書いわく」
1.会社は労働基準法をはじめ諸法律を順守すること
2.会社は就業規則を明示し、就業規則の周知義務を果たすこと
3.会社は賃金カットおよび夏季一時金カットを白紙撤回すること
4.会社は現行賃金制度を見直し、賃金体系を改善すること
5.会社は法律に基づき年次有給休暇を付与すること
6.会社は法律に基づき週40時間制を順守すること
7.会社は時間外未払い賃金を直ちに支払うこと
8.会社は要求に基づき夏季一時金を支給すること
9.会社は労働安全衛生法に基づき健康診断を実施すること
10.その他
ありとあらゆる要求が並んでいる。考えてみれば、今までできていないことばかりだ。この要求をすべて呑めば、間違いなくつぶれる。やりたくてもできなかったのだ。毎日生きていくのに精いっぱいで、労働基準法どころではなかった。しかも「夏季一時金要求書」は組合員1人当たり25万円の要求である。今までは1人平均10万円の支給であり、今回はさらに5万円へとダウンしている。もともと恵まれた労働条件ではなかった。事務のスタッフは妻と娘で担当してきた。家族経営である。それが刃物を突き付けられた。
「自分は団体交渉に出たくない」︱︱A社長は、妻に訴える。しかし、矢のように組合は迫ってくる。「法律を守れ」と要求しているので、妻は弁護士に相談することにした。つてをたどって若い弁護士に会うことができた。この若い弁護士を代理人として団体交渉に出てもらうことにした。A社長の報酬50万円をさらにダウンさせてゼロとし、その分、代理人に支払うことになった。このケースは珍しい。裁判になってもいないのに、いきなり弁護士の登場である。しかも、団体交渉における経営者の代理人である。
(つづく)
この記事へのコメント
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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