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現場力復権(遠藤功・著、東洋経済新報社)
2009年6月24日
「現場力は日本の持っている宝である」と語るのは、『現場力復権 現場力を「計画」で終わらせないために』の著者・遠藤功氏(ローランド・ベルガー会長)だ。折しも、同著を執筆中に「リーマン・ショック」があった。同氏は、「日本の現場力は世界的にも見てもまれであり、日本を良くして行く鍵となるもの。この事実を再認識して欲しかった」と同著の狙いを明かす。
遠藤氏
「その一方で、現場力がない、あるいは一度鍛えても維持できない日本企業もある。非正社員化の進行や、世代間のノウハウの継承がうまく行っていないこと、外注化など、理由はさまざまあるが、ここで一度原点に立ち返り、経営と現場とが一体となって現場力を取り戻すべきなのではないか」
とはいえ、遠藤氏は「非正社員化」や「外注化」などを「すべきではない」と言っているのではない。「念頭に置くべきは『品質』。これは企業活動の生命線と言えるものであり、物流であれば『輸送品質』ということになる。品質を担保するためにはどういう人材で業務をまわせば良いか。そう考えれば自ずと、長期雇用を前提とし、会社や企業とコミットしてくれる人材を中心に据えることになり、そういった従業員を増やさざるをえない。コストはかかるが、これをカバーするには、そのサービス(品質)に対価をいただけるような高付加価値のビジネスや収益モデルであることが必要」
同著では、19年連続で増収増益を達成している食品スーパー・オオゼキの例が紹介されている。パート・アルバイトを中心とする企業が多い、典型的な「労働集約型」の業態でありながら、同社は約7割が正社員。仕入れや販促などが全て店舗に任されており、まさに現場主義が奏功している好例と言える。また、同氏は、「経営とは差別化だ」と話す。
「他社がやっていることを真似てもダメ。大切なのは独自性であって、『同じことはやらない』という気持ちを持つぐらいでないと。日本企業は他社と同じことをやっていれば安心とばかりに、『差別化』ではなく『同質化』してしまうことが多いが、それでは絶対にうまくいかない」
同氏の言う「独自性のあるサービス」–これを見つけるのに、「百年に一度」とも言われるこの不況期はまたとないチャンス、とも。
「お客さんの『困っていること、満たされていないこと』の中に新事業となりうるチャンスが転がっている。そのためには、とにかく現場に出てお客さんの声を直接聞くこと。いまは(世の景気は)トンネルだが、荷主はトンネルを抜けた後のことも考えている。その時に新しい価値を提供できれば強い。耐える時期ではあるが、耐えるだけでは何も変わらない」
現場力を強化し、現場で得られた情報をもとに、質の高いサービスを構築する―その時、そこに「経営」の視点が加わることで、荷主へ大きな価値を提供することが可能になる。
「たとえばシステムを入れて、リアルタイムの荷物情報を荷主に報告できるようになったとする。そこで満足するのではなく、それによってお客さんのサプライチェーンやビジネスに対して、どのような価値が提供することになるのか。そこまで考えてビジネスを設計すれば、他社との差別化が図れる『ソリューション』の提供ができる」
同氏の挙げるキーワードは「差別化」と「戦略」。メーカーが減産を行っているいま、各社で工場の改革が大きく進展するだろう。その時、ロジスティクスを担う物流事業者はどんな提案ができるか。その「ニーズ」や「チャンス」の芽は、現場に転がっている。
▼「現場力復権」、遠藤功・著、東洋経済新報社、1600円(税別)
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