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ブログ・小山 雅敬
192回:賃金請求権の消滅時効延長による運送会社への影響
2020年9月29日
【質問】4月から賃金請求権の時効が延長されたと聞きましたが、運送会社には、どのような影響があるのでしょうか?
今国会に提出されていた「労働基準法の一部を改正する法律案」が3月27日に可決・成立し、同31日公布、4月1日から施行されました。今回の労基法改正は4月1日からの民法改正に合わせて賃金請求権の消滅時効期間を延長したものです。従来は、賃金(及び付加金)請求権の時効期間が2年、退職手当請求権時効期間が5年、賃金台帳などの書類保存義務が3年となっていましたが、これらを統一して5年に改正しました。ただし、経過措置として当分の間、賃金・付加金の請求権及び賃金台帳などの保存義務期間を3年としています。「当分の間」の期間について明記していませんが、改正法施行後5年経過後の状況を勘案して検討し、必要があるときは措置を講じるという検討規定が設けられたことから、5年後に経過措置が見直され、条文どおり5年が適用される可能性が高いと思われます(なお、今回、災害補償や年休などの請求権については従来の消滅時効期間2年が維持されました)。
4月1日から賃金請求権の消滅時効が2年から3年に延長されたことにより、4月1日以降に支払う賃金から消滅時効期間3年となります。施行前に支給した賃金に訴求して適用されるわけではありません。
今回の法改正が、運送会社の経営に与える影響については、①未払い残業代請求 ②労働時間に関するトラブル③労働時間管理や賃金体系の見直し、などの増加が考えられます。本コラムでも過去に何度か述べてきたとおり、最近、運送会社の現場では賃金に関する労使間トラブルが増加しており、特に退職社員からの未払い残業代請求の動きが各地で加速しています。
今回の消滅時効期間延長により、未払い賃金の請求額が1・5倍(5年後からは2・5倍)に増加することが見込まれるため、トラブル事案のさらなる急増が予測されます。
運送会社の中には、先代社長が過去に作った古い賃金体系を代替わりした後も見直さず、コンプライアンスが厳しくなった時代に全くそぐわない賃金体系を維持している会社がいまだに存在します。このような会社は、これから非常に危ない状況です。コンプライアンスと適正利益の確保および人材確保に効果的な賃金体系を検討し、見直す行動が早急に求められます。争いが発生した後に対策の遅れを後悔する経営者が多いのです。
(コヤマ経営代表 中小企業診断士・日本物流学会会員・小山雅敬)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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