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ブログ・小山 雅敬
第249回:基本給・割増賃金振り分け方式賃金制度の是正方法
2023年4月21日
【質問】わが社はドライバーの賃金の決め方として、月間の出来高をもとに歩合率を掛けて総支給額を計算し、その金額を基本給(最低賃金)と時間外手当、深夜手当等の割増賃金に振り分けて支払っています。割増賃金の計算は法定通りに行い、余りを調整手当として支払っています。この方法で問題ないでしょうか?
本年3月10日にある運送会社の最高裁判決が出ました。
ご質問内容と同様の計算をしていた会社に対し、最高裁は「時間外労働の多寡によって賃金総額が変わらない賃金制度は違法」と判断しました。
また裁判長の補足意見により、実態の時間外労働時間を大幅に超える過大な固定残業代について「脱法的」と否定的な意見が付されています。
今後は時間外労働をいくらしても賃金総額が変わらない賃金制度(振り分け方式など)は、裁判で否認される恐れが高まりました。
ドライバーの運行実績によりあらかじめ賃金総額を決め、その金額を基本給と割増賃金に振り分ける制度を導入している運送会社は全国に多数見られます。
このような最高裁判決が出た以上、今後賃金トラブルが各地で増加することが見込まれます。
ご質問のような賃金計算は早急に改める必要があります。
改定する場合の一例としては、元の賃金計算(すなわち歩合給計算)を表に出して、賃金制度を歩合給体系に切り替えることが考えられます。
社員がもともと歩合計算で賃金が決まることに同意していたのであれば、賃金計算の実質が大きく変わるわけではないので、比較的理解を得やすいでしょう。
ただし、従前の制度は時間外労働に対する割増賃金を支払っていないので、これを是正する必要があります。
全額歩合給であっても、時間外や深夜の労働時間数に応じて法定の割増賃金を追加支給しなければなりません。「月間歩合給総額÷月間総労働時間」で時間単価を算出した後、その単価に時間外60時間以内までは0・25、時間外60時間超は0・50の割増率を使い、各時間数を掛けて算出します。
全額歩合給の場合、時間外単価が少額になりますので、大きな持ち出しにはなりませんが、現状賃金よりは多少上がり、時間外労働の多寡により変動することになります。
なお、元の歩合計算が例えば車格別に一日○○円など一日単位の決め方である場合は歩合給として認められないので、歩合給の計算基準自体を見直す必要があります。
例えば立寄り件数や積卸し回数などを付け加えて中身の構成を変えるなど、作業実績をより細かく見る方向に改定することが考えられます。
なお、賃金改定は全員の同意を得て賃金規程を変更する必要がありますのでご注意ください。
(コヤマ経営代表 小山雅敬/中小企業診断士・日本物流学会会員)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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