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ブログ・小山 雅敬
第256回:同一労働同一賃金の最高裁判決(7月20日)から見たドライバーの「基本給」における留意点
2023年8月25日
【質問】7月20日に同一労働同一賃金に関する最高裁判決が出たと聞きましたが、運送業において注意すべき点などがありましたら教えてください。
先日の7月20日に同一労働同一賃金に関する新たな最高裁判決が出ました。この裁判は、定年再雇用時に職務内容が同じなのに、基本給が約45%に減額され、賞与額も大幅に減額された事案であり、「基本給」の格差について最高裁がどのような判断をするか注目されていました。
一、二審ともに定年退職時の基本給の60%を下回る部分について不合理と判断し、差額の支払いを命じましたが、最高裁は基本給も「不合理な格差」の対象になると言及したうえで、過去の判断基準どおり基本給についても「基本給の性質、支給の目的などの諸事情を考慮する必要がある」とし、高裁の判決を破棄して差し戻したのです。
この判決をもとに運送会社がドライバーの定年再雇用時に注意すべき点について述べます。ドライバーの場合は大抵、定年再雇用後も職務内容が全く同じであり、配置転換もほとんどありませんので、再雇用時に待遇格差をつけた段階で即、問題になるケースが多いと思います。(但し年金受給等の「その他の事情」が考慮される余地はあります)
ドライバーの定年再雇用時の注意点を次に列記します。
①「定年再雇用時に賃金を6割までなら下げられる」とは思わないこと。一、二審の判決は金額格差を問題にして60%基準を提示しましたが、最高裁は「性質と目的」で判断すべきとして破棄しました。
②「社員区分」の定義を明確にし、就業規則に明示する。
③固定給の場合、基本給の決定要素に「勤続」「年齢」「学歴」等の文言を入れない。基本給は「職務内容」「役割と責任」「技能」など多面的な要素で決定し、賃金規程にも明記する。
④班長と一般ドライバーの役割の違いを明確にし、定年再雇用時には班長の役職を外す。班長の役割=無事故推進役、車両整備・清掃の指導・推進、班内のコミュニケーション推進、新人指導、班長会議参加、など。
⑤評価制度を導入する。同じ仕事内容でも評価により差が出る仕組みにする。
⑥賞与を支給する場合は「正社員の採用と定着の促進」を支給目的にする。
⑦賃金は正社員、非正規社員ともに「業績給」体系を基本とし、社員区分に関わらず賃金の計算を変えない。体力低下などからくる生産性低下は業績給の仕組みの中で自然に反映されるようにする、などが挙げられます。
(コヤマ経営代表 小山雅敬/中小企業診断士・日本物流学会会員)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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