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ブログ・小山 雅敬
第274回:賃金債権の消滅時効5年に向けた対策
2024年6月21日
【質問】残業代の賃金トラブルが増加していると聞きますが、賃金債権の消滅時効が次に延長されるのはいつからでしょうか? また延長された場合の影響とその対策について教えてください。
2020年4月1日に施行された改正労働基準法により、賃金債権の消滅時効はそれまでの2年間から5年間に延長されました(労働基準法第115条)。しかし一方で、同第143条3項の規定により、「当分の間、(中略)賃金の請求権はこれを行使することができる時から3年間とする」とされました。
つまり条文上の5年間の消滅時効は「当分の間」猶予されており、現在は3年間の消滅時効が適用されています。
ところが改正法付則第3条において、「政府はこの法律の施行後5年を経過した場合において、(中略)検討を加え、(中略)必要な措置を講ずるものとする」とされています。
すなわち、法施行日から5年後にあたる2025年3月31日を経過した時点で見直しを検討することがうたわれています。ご存じのとおり、未払い残業代請求等の賃金トラブルは年を追うごとに増加傾向にあり、運送業における賃金トラブルは最近顕著に増加しています。
特に2020年4月の労基法改正後および遡及期間が丸々3年間になった2023年4月以降は、各地で頻発するようになりました。残業代トラブルが急増した一因に、賃金債権消滅時効の延長で請求金額が増大したことがあるといえます。
前述したとおり、2025年4月以降消滅時効の見直しが行われるものと予想されます。いまだ結論は出ていませんが、民法の定め(金銭債権は原則として5年間)との関係から、労基法の経過措置には整合性が無いとの指摘もよくなされており、近い将来、賃金債権の消滅時効が延長される可能性は高いと考えられます。
仮に5年間に消滅時効が変更された場合、未払い残業代の請求額は現在の約1・7倍になります。その場合、さらなる残業代請求トラブルの増加と請求金額の増大化が予想されます。
現在、当方が各地で運送業コンサルティングを行っているなかで、割増賃金の支払い方に問題のある会社がかなり散見されます。賃金体系の見直しにより割増賃金の適正化を行っていますが、運送会社のなかには現行の賃金体系に漠然と不安を抱えながら、手つかずのまま放置している会社も多いのではと思います。
賃金債権の消滅時効が延長される前に身近な社会保険労務士や弁護士等の専門家に相談し、早めに見直しに着手することをお勧めします。
(コヤマ経営代表 小山雅敬/中小企業診断士・日本物流学会会員)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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