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物流ニュース
車検証交換は「手渡し」 オンライン申請できても…
2020年5月15日
「車検の期間も延長されているのに、なぜあんなに毎日人が集まってきているのか」。新型コロナウイルス感染拡大防止のため国交省は2月から、車検期間を延長することで各地の運輸支局への不要不急の来庁をしないよう呼びかけている。いっぽうで、運輸支局の近くに拠点がある物流関係者からは冒頭のような指摘があがっている。車検のオンライン申請もできるのだが、ある一つのことだけのために来庁を余儀なくされている事情もあるという。今回のような事態下での来庁のための外出も防げるはずだったオンライン化は、なぜまだ機能していないのか。
新型インフルエンザ等対策特別措置法上の緊急事態宣言が全国に拡大される直前の4月16日午後。同7日からすでに宣言下にあった兵庫県内の、自動車検査や登録を所管する、兵庫陸運部(神戸市東灘区)をたずねた。
来庁者用の駐車場は半分程度の利用率。建物の入り口には、緊急事態宣言を受けて「二つのお願い」の文書が。「可能な限り当該(宣言)期間の来庁を避けていただく」ことと、いわゆる「三密」を避けること。もっとも、「(宣言)期間中も通常通りの業務」を継続することも書かれてある。
建物の中はどうか。自動車の検査や登録を受け付ける1階フロアに入ってみると、職員も含め20人ほどの姿が。なかには親子連れやカップルと見られる人々も見られた(写真)。
同陸運部も含む全国の運輸支局で行われる車検や登録業務(3310万件、2017年度)のうち半数近く(1550万件、同)を占めるのが継続検査、いわゆる車検だ。車検に関して国交省は2月28日から、満了期間を1〜2か月程度延長する措置をとっている。現在も車検証の有効期間が5月31日までの自動車はすべて、6月1日まで有効期間が延長中。「外出による感染拡大のリスクを排除する必要がある」(近畿運輸局)との判断からだ。
車検以外の名義の移転や変更などの登録には、緊急事態宣言を受けた措置はとくに設けられていない。
ただ、車検をはじめそれ以外の登録手続きも、運輸支局にまで足を運ばずに進められるよう国交省が推進してきたのが、オンライン手続き「ワンストップサービス(略称OSS)」だ。
05年の運用開始以来15年が経つ現在、兵庫をはじめ、全国ほとんどの都道府県で現在はOSSで新車の新規登録、継続検査(車検)、移転・変更・抹消などの手続きが進められるようになっている。
こうした環境が整いながらなぜ、不要不急とも見えるような来庁が運輸支局にあるのか。
近畿運輸局自動車技術安全部は、「新旧の車検証の差し替えは窓口での手渡しに限られている。その部分で人が立ち入ってしまう」とのこと。いわば、物理的な「紙の交換」が伴うためだ。
そのうえで同部は、「22年度から始まる予定の車検証のICカード化によって多くの手続きの来庁は不用にはなる見込み」と話す。
ではもし、運輸支局の職員の中に新型コロナウイルスの感染者が出るなどして一時閉庁を余儀なくされた場合、「紙の交換」はどうなるのか。郵送するなどの対応はあるのか。
同部は「保健所からの指示を仰ぐ形になる。郵送するなどについては検討していない」としている。
「15年も前からオンラインシステムがありながら、いまだに『紙の受け渡し』で来庁するなんて」。先述の物流関係者はため息混じりにそう言い放つ。
国交省の「自動車検査証の電子化に関する検討会」は昨年1月の中間取りまとめの中で、OSSを使って申請を済ませたとしても「検査証を受け取るため、運輸支局等へ必要性が残存して」いると指摘。さらには「ディーラー、整備事業者負担軽減につながる」として、ICカード化などの検討に入るよう、国交省に求めている。
もともとこの検討会は、ユーザーやディーラーの負担軽減を目的として立ち上げられた経緯がある。しかし、継続検査(車検)でのOSSの利用率は24.7%(昨年3月時点)に留まり、4台に1台の自動車にしか利用されていない。どのみち一度は車検証を受け取りにいかねばならないのなら、まどろっこしいオンラインシステムなどを使う必要もない——。そうした心理が働いてもおかしくなく、逆にそうした利用率の低さがICカード化も含めたシステムの完全化を遅らせてきた事情もある。
ディーラーや整備事業者の働き方改革を進めるための体制作りが進んでこないのも、むべなるかなといったところである。
ことが「緊急事態」のような話になって、例えば近畿運輸局では「郵送での車検証の交換」も部局内では検討されるなど、立派なシステムがありながらの後手後手の対応に終始している印象がぬぐえない。
何のためのオンラインシステムか。原点に立ち返り、早急に利用者目線に立ったシステムの完全化を進めるべきだ。
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