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物流ニュース
取り残されたトレーラ 防潮鉄扉を閉じられ
2018年9月13日
平成最後の夏、大雨や台風による被害状況が各地から伝わる。そんななか、物流事業者が拠点を構えたり立ち寄ったりすることの多い港湾地域特有の被害が、8月の台風20号に襲われた神戸港で発生した。半世紀以上も記録されたことのない高さにまで上昇した潮位、そして港湾管理者による連絡体制の落ち度が被害を大きくした可能性が伺われる。キーワードは「堤外地」。天災であり、かつ人災とも取れる今回の台風による被害は、港湾地域と関わりを持つすべての物流関係者に改めて警戒を促しているふうにも読み取れる。
「パレットがそこら中に漂っている。車やコンテナも浮いていた」。先月23日から24日へと日をまたぐ約1時間。トレーラ乗務員の大上啓治さんは、そのときの神戸港・新港第4突堤(4突堤)で起きていた事態の様子を話す。
23日午後10時半。現地の4突堤に、コイルを積載したトレーラで到着した大上さん。仕事上、協力関係にある別の運送会社のトレーラ2台が同11時半までに到着し、港運業者による荷下ろしが始まる朝まで仮眠しようと室内灯を消した。その間、台風20号による風がきつく、荷台のシートを時々確認していた。
気づいたのはその10分から20分後、協力先トレーラのクラクションが鳴ったからだ。様子を伺うと、すでにタイヤが30〜40センチ浸水していた。トレーラを移動し4突堤を出ようと100メートルほど進む。しかし、防潮のための鉄扉がすでに閉じられていた。
「ここを開けろ!」大上さんらは、鉄扉の向こう側にいた神戸市職員の巡回車に、パッシングやクラクションで呼びかけた。その間にも潮位はどんどん増してくる。荷役用のパレットがそこここに浮遊。近くの4トントラックやコンテナも流され、波に漂う。
「降りたらかなり深い。どこに側溝があるのかも分からない」。身の危険を感じ、運転席を降りられない。市職員は「個人の判断では(鉄扉を)開けられない」と言うばかり。押し問答の約10分後に大上さんらが110番。その約20分後に鉄扉に取り残された大上さんら4人がレスキュー隊員に助けられた。
大上さんは話す。「スモールランプや室内灯を着けて待機中、市の巡回車が何度かやってきており、人が鉄扉の向こう側にいたことは知っていたはず。声がけもなしに、なぜ防潮鉄扉を閉めたのか。鉄扉さえ開いていればトレーラが逃げることができたのに」
大上さんが所属する運送会社「大倖」(京都府向日市)の小山豊社長は本紙取材に、「声がけもなく鉄扉を閉めたことによる人災」と話し、神戸市に対して補償を求めていく構えだ。
防潮鉄扉を閉めたときに扉に取り残される土地は「堤外地」とも呼ばれる。4突堤はその一つだ。4突堤で約30年間、トラックの車庫を市から直接借り受ける運送会社「長栄」(神戸市須磨区)の4トン車2台も高潮による浸水で「廃車にするしかない」(同社・岩谷勝仁専務)状態だ。
鉄扉を閉めるという連絡は同社にも「入らなかった」(同専務)という。これまで台風が直撃する前には鉄扉を閉める可能性があるという連絡があったといい、同専務は、「車などが出せなくなる土地の借り主に対して連絡するのは当然」などと話している。防潮鉄扉の管理をする神戸市みなと総局海岸防災部は本紙取材に、「連絡先のリストは毎年更新する形で管理し、リストにあがっている事業者にはすべて連絡できた。しかし、リスト自体が100%ではなかったこと、また、たまたま堤外地に立ち入った人に対する告知体制は今後の課題」と話す。
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