-
射界
2018年2月5日号 射界
2018年3月9日
フランスの劇作家モリエールの作品に『強いられた結婚』というコメディーがある。その中に登場するバンクラーク博士が「言葉とは、心に思ったことを表現するために人間に与えられている。言葉は心の代弁者であり魂の姿である。さあ、あなたの気持ちを話してみなさい」と話す場面がある。
▲この作品が発表されたのは17世紀だが、18世紀になって政治家タレーランは、彼好みのエスプリを利かして、「言葉は、思うところを偽るため人間に与えられたものだ。ある連中に言わせれば、思うところを隠す助けをさせるためである」と発言して物議をかもした。そう言われてみれば「そうかな」と思えなくもないだけに納得する向きも多くあった。
▲一方で「言葉は人類によって使われた最も強力な薬品である」と喝破した哲学者も現れた。薬品である以上、良薬とするか劇薬となるかは使い方次第。使い方を誤れば効用は全く違うだけに、扱い方には慎重を要すると警告している。現世は複雑化し、価値観も多様化している。表現の言葉遣いを間違えて非難され、「売り言葉に買い言葉」となる例もある。
▲表向きは友好ぶりを見せながら、心のうちでは真逆であるのも現世の常。少しの時間でも話し合えば、ある程度の相手の思いが浮かび上がる。「心内に動きて言葉外(ほか)に表す」といわれる通り、心の思いを飾っても、言葉の端々に本心が見え隠れするので、言葉になくても態度や雰囲気が教えてくれる。となれば、この世はモリエールでありたいと願う。
この記事へのコメント
-
-
-
-
「射界」の 月別記事一覧
-
「射界」の新着記事
-
物流メルマガ