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物流ニュース
「社長交代」各社各様 いつ、だれに、どうやって…
2011年6月10日
かつて昭和の時代に創業した社長の多くが高齢となり、運送業界では次世代への社長交代の時期を迎えている。企業規模が小さいほど、社長の器で経営が左右される部分は大きい。社長の器と力量のある後継者に譲れるのかどうかは中小企業の大きな節目だ。様々な社長交代劇を聞いた。
山梨県にあるY社の社長は40代。社長といえども普段はトラックに乗っている。同社を立ち上げた先代の娘と結婚したのを機に入社した。従業員は数人。それまでは機器メーカーの営業をやっていたので、運送業を初歩から学んだ。社長を引き継ぐ気持ちは薄かったが2年前、ある危機感から先代に社長交代を迫った。
コスト削減のためもあり、自社で車両整備をする同社。ある日、エンジンの整備をしていた先代が、部品を止めるネジが入らないと言って無理にはめ込もうとして金槌で叩いている光景を見て驚く。社長が「手伝え」と呼ばれて車庫に行ってみると、ネジ山はつぶれて使えなくなっていた。それを見て、先代に任せておくことが恐ろしくなったという。正しい知識もないままに車両を整備し、事故が起きた場合の責任などは考慮していないことを感じた。従業員は、先代のやることに何も言わずについてきた。従順であることは先代にとってはいいことだったが、それもたまたま事故がなかったからだ。
コスト削減優先で車両整備も適当に行い、従業員の労働環境や安全にも配慮しない先代に任せておくことが、いかに危険なことかを直感した社長は、先代に対して交代を相談した。先代からは猛烈な反発があったが、取引先などを説き伏せた末に社長交代に至る。先代の経営感覚に対して危機感を抱いたのをきっかけに、後継者側から社長交代を迫った形だ。
先代社長が前から準備を進めてきて譲ったのは、神奈川県のN社。息子だったがドライバー職から管理業務まで、あらゆる分野を経験させてきた。社長の座を譲るにあたり、先代がもっとも伝えたかったのは従業員に対する姿勢。「社長一人で事業はできない。従業員は大切に育てていくことが会社の役割」と先代は話す。「社長自身が『イヤなら辞めろ』なんていう姿勢では、やりがいのある会社にはならない。社長も従業員の立場も、それぞれに役割を分担しているということ」というのが先代の教え。
その経験の中では「いろんな人材がいる。どんなに教育しても箸にも棒にも掛からない人がいた」が、そうした人々も事業拡大のためには必要だったと今はわかるという。どんな人材も生かしてきた。同社の事業規模は大きくないものの、法令順守やコーポレートイメージなど、中小・中堅企業に比較しても引けをとらないだけの経営を心がけてきた。それは荷主からの信頼につながった。
先代から後継者に託したのは、「経営者は一言で身を滅ぼす。心を大切にして、仕事をしてもらいたい」というお願いだったという。
変化連続の時代だ。中小・零細企業においては社長交代において、「何のための経営なのか」といった企業理念の継承なども課題だ。この記事へのコメント
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