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物流ニュース
下請けいじめの撲滅 中小企業庁や公取委への通報で長時間労働解消へ
2016年8月3日
トラック運送業における長時間労働は、他業種に比べて自社努力だけではなかなか改善しないのが現状だ。そんな中で厚生労働省は、中小企業で働く人の長時間労働の原因に、親事業者からの「下請けいじめ」が疑われる場合、中小企業庁や公正取引委員会への通報を始める方針を発表した。現状でも賃金不払いなどの問題を把握した際に、下請けいじめが原因だと疑われる際は厚労省から中企庁や公取委に通報する制度があるが、その仕組みが長時間労働の解消にも応用される。厚労省労働基準局監督課監察係によると、「開始時期や通達の時期は未定」だが、その制度の本気度と行方に注目したい。
トラック運送業では数年前まで、輸送コストが叩かれ、さらに軽油高も加わったことで、多くの運送事業者の経営は苦境に立たされた。運賃値上げを打診すれば取引を打ち切られるといった、「弱い者いじめ」も見受けられた。
公正取引委員会によると、平成26年度の下請法違反行為に対する勧告件数は7件、指導件数が5461件。勧告・指導件数の計5468件のうち業種別内訳を見ると、運輸・郵便業は402件で全体の7.4%となり、製造業が多く占めている状態だった。
今回の新たな通報にあたる一例として、運送業では「手待ち時間が多くなり長時間労働になった原因を荷主企業がつくりだしている場合」などが該当するという。
具体的には、労働基準監督署の調査で長時間労働が確認され、その理由として不当に低い金額での発注などが疑われる場合、中企庁や公取委に通報して改善を促す。通報の際には、下請け事業者の意向を事前に確認することが必須とされる。しかも通報を理由に、親事業者が取引を停止した場合は行政指導の対象となる。
下請法第4条第1項第7号に、「報復措置の禁止」がある。「もし下請法違反があった場合、勧告になると通常は社名が公表され、指導でも事案の内容では社名公表があり得る」(公正取引委員会企業取引課)。
これまで厚労省は、平成26年6月に「過労死等防止対策推進法」が成立したことを受け、「長時間労働削減推進本部」を同年10月に設置した。今回の通報制度も長時間労働削減の施策のうちの一つといえる。しかし、滋賀県の運送事業者は「荷主企業と運送事業者の立場が変わらないのであれば、今までと変わらないのではないか」と指摘。大阪府の運送事業者も、「今回の通報制度は本当に機能するのだろうか」と疑う。
現在、人材不足問題なども相まって多少の運賃値上げは受け入れられるようになったが、安全・環境コストなどまだまだ運賃値上げの要因は多い。多くの荷主企業で、運賃問題や労働時間など運送事業者の苦境が理解されつつあるが、悪質な荷主企業を一律に指導しなければ根本の解決にはならない。
平成27年4月から12月にかけて、労働基準監督署が8530の事業場に立ち入り調査を実施したところ、そのうち半数以上の4790業所で違法な長時間労働が確認された。長時間労働の主要な背景の一つとして「下請けいじめ」の状況が問題視されており、今回、取引条件にまで踏み込んで長時間労働の対策を強化する方針を示している。
国の政策で「働き方の改革」が進む中で、規制緩和後の歴史を振り返ってみると、賃上げ・労働時間短縮といった労働環境の改善は、なかなか先に進まず暗雲が立ち込めているともいえる。
長時間労働が続くと生産性の低下を招くという見方もあり、実際、経済協力開発機構(OECD)によると、加盟国中の先進主要7か国の中で、日本の労働生産性は最も低いという調査結果がある。人材不足のトラック運送業では、事故を起こす危険性が増え、会社の存続さえ危ぶまれるなど、長時間労働が引き起こすリスクはあまりにも大きい。
現在でも運輸局と労基署間の通報制度が機能しているが、今回の通報制度が改善への「より大きな一歩」となるのか期待したい。この記事へのコメント
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