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ブログ・馬場 栄
第155回:給与体系変更の留意点(3)運送事業のコンプライアンス
2019年7月30日
前回に引き続き、給与を変更する際に検討すべき事項や留意点、必要な手続きや実務上の注意点について紹介していきます。給与体系を変更する場合に検討すべき事項には、表に記載したおおむね5つの観点【図①】が必要となります。その中でも今回は「コンプライアンス」について説明します。
まず、コンプライアンスを考える上で、運送事業の業務の特殊性を考える必要があります。具体的には、どのような点が一般業種と比べて特殊なのでしょうか。例えば、運転業務は「道路渋滞の影響」「事故・道路規制」「天候」など、ドライバーがコントロールできない環境変化が伴う労働であることが挙げられます。また、組織・チームで業務を行う一般業種と比較すると、運転業務は通常運転者1人で行い、また事故・違反リスクの伴う継続的な緊張状態の中で業務を行うという点でも、一般業種とは異なります。さらに運送契約の形態に元請け・下請け構造があることや、荷物運搬に関して競合他社と運賃以外の条件で差別化を図ることが一般的に困難である、といった特殊性があります。
これまでの労働基準法でも、このような事情を踏まえた運送事業固有の規制がされています。現行法での運送業固有の規制として、①労働時間と休憩時間を合わせた拘束限度時間基準が告示で設定されていること②36協定に関し、一般業種では原則月45時間以内・年360時間以内と規制されているが、自動車運転業務は適用除外とされていること③休憩に関し、一般業種では原則として労働者へ一斉に休憩を付与することが求められているが、運送事業では求められていないこと、などが挙げられます。
4月に「働き方改革」関連法の改正が行われましたが、運送事業に関しては業種、業務に一定の特殊性があるため、一般業種とは異なる規制が行われました。働き方改革関連法は、労働時間抑制、年次有給休暇の付与義務など労働者の働き方を変えていく内容です。時間外労働時間の規制に関しては、罰則付きの規制が始まり、これまで事実上、上限がなかった時間外労働時間が「罰則付き」となることは大きな改正と言えます。ただし、罰則付き時間外労働時間規制の中でも「自動車運転業務」などに関しては、上限時間(年間960時間と長め)及び実施時期(5年間の猶予)について一般業務と異なる規制が導入されました。
また、働き方改革関連法に加えて運送事業の経営への影響が大きいものとして、民法改正に伴う労働基準法の改正により、未払い賃金の請求時効が2年から5年に延長される可能性があります(詳細未定)。未払い残業のトラブルが多発する運送事業への影響は大きく、労働時間の把握や適正な給与制度の設計・整備が急務となります。
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筆者紹介
馬場 栄
保険サービスシステム株式会社 社会保険労務士
年間約300社の経営者の相談・アドバイスを行っている。中小企業の就業規則や残業代など、幅広い労務管理のアドバイスに高い評価を得ている。 -
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