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ブログ・馬場 栄
第156回:給与体系変更の留意点(4)給与体系のコンプライアンス
2019年7月31日
前回に引き続き、給与を変更する際に検討すべき事項や留意点、必要な手続きや実務上の注意点について紹介していきます。給与体系を変更する場合に検討すべき事項には、表に記載したおおむね5つの観点【図①】が必要となります。その中でも「コンプライアンス」について、前回に引き続き説明します。
労働基準法・最低賃金法によりドライバーの給与を支払う際には、最低賃金以上の時間単価を基準として、労働基準法で定められた割り増し率以上の残業代を支払うことが求められていますが、この法律上のルールが運送業経営実務にストレートにあてはめにくいのも事実です。
一般業種(例えば製造業等)では工場ラインを延長稼働させれば、その時間分生産量が増加します。しかし、運送業では運転時間が超過しても直接、運賃収入が増加しないケースがほとんどです。2017年11月の標準約款改正により「荷主指定時間」からの遅延に関し料金請求が出来るようになりましたが、中小の運送業者にとって、実際の取引に影響が出ている実感はないのではないでしょうか。労働基準法の時間規制は社員の身体面・精神面の「健康管理対策」という側面より、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超過した場合に法定割り増し率以上の残業代を支払うことが義務付けられているわけですが、売り上げとの連動性という観点では一般業種などと比べ連動性が低いのも事実です。
例えば、同じルートを運行し同運賃をもらう2人のドライバーの運行所要時間に差があった場合(Aさんが長く、Bさんが短い)に、運賃(売り上げ)は同じ金額ですが、給与額は時間基準で支払うことが義務付けられるのでAさんが高くなります。この場合、一般に燃料代などのコストも時間が長いドライバーAさんのほうが高いので、会社収益(貢献度)基準ではドライバーBが高く、Aさんは低いということとなりますが、給与支払いは時間基準ですので給与額はAさんのほうが高くなってしまいます。このような場合はドライバー間でも「不公平感」「不満」が発生する場合があります。
運送業経営者が残業代支払いに対する意識が低い背景としては、このような一般業種と比べた運送業の特殊性や経営者感覚との隔たりがあると考えられます。このような運送業固有の特殊性があるため、これまで給与体系に関し、「コンプライアンス」面はあまり重要視されてこなかったと考えられます。現状でも多くの運送会社で「この仕事は1本いくら」という考え方の給与制度の会社が多い現状であり、残業代や最低賃金の計算方法に関して正しく理解している経営者は多くありません。
しかし、残業代に関するトラブルが頻発し、①最低賃金の上昇②残業代割り増し率の改正がされていることを踏まえると、早い段階で対策を実施していく必要性があります。「この仕事は1本いくら」という給与基準は誤りではありませんが、時間基準での支払いを求める法律との関係を整理することが求められます。
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筆者紹介
馬場 栄
保険サービスシステム株式会社 社会保険労務士
年間約300社の経営者の相談・アドバイスを行っている。中小企業の就業規則や残業代など、幅広い労務管理のアドバイスに高い評価を得ている。 -
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