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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(281)人材育成について(4)A社の事例(3)
2020年3月2日
このことに関して、私は心に残ることがある。200人の中堅運送会社で月1回、毎日曜日、幹部研修を行っていた。研修が終わると夕食ということで、いつも夜10時ぐらいまで続く。担当講師である私もしんどいが、受講する幹部社員はもっとであろう。この社長は一人ひとりの成長に深い思いを持っていた。
ある研修でのこと。毎回レポートを書かない社員がいた。レポートは前回のまとめを書くことになっていたが、いつも書いてこない。この社員は、しかも営業部長で私も悩んだ。つい大きな声でくりかえし叱って責めた。
「前回も書いてこなくて、これでは示しがつきません。私の言っていることはカエルの面に小便ですか!」
言いすぎてしまったかと悩んでしまうが、毎回書いてこない。正直私はあきらめかけた。しかし社長は、「彼はレポートは書かないが、いいところもいっぱいあるんだよ。たしかに先生の立場では、レポートを書いてもらいたいだろうけど、じっとしんぼうしていれば、そのうち必ず書くよ。じっと成長を信じて待つことだよ」
この社長の人間的成長への思いは深いと感じた。じっと信じて待てるかどうか。これは人材育成にとって大きなポイントである。すぐさま役立てようとして、つぶしていく例も多い。
この営業部長は、なぜ、レポートを書かないのか。一つには研修に対して悩み、壁にぶつかっていたのだ。日曜日のみの研修講師である私は、そこがわからない。
社長は営業部長の悩みを知っている。じっと壁を破り成長していくことを願っている。私にはそれがない。コンサルタントとして自己を恥じた気持ちになった。心から営業部長の成長を願うことを前提として叱らなければ反発されるだけであると気付いた。
彼の悩みは、営業部長として、みんなをまとめていけないということだ。日曜日の研修をみんな辛がっている。この辛さを解決できないということで、ジレンマに直面していたのだ。
人間の成長への可能性を信じることは、人材育成の基本だ。日曜日の研修は辛いが、しんぼうしてやり抜こうと心から参加者が決意できるようにするためには、一人ひとりの参加者の心を開かせることだ。
そのため、私は一人ひとりとヒヤリングした。じっくりと聞いた。ひたすら聞くことで、相手のカガミになっていくことで信頼関係をつくって研修に臨んだ。ついに営業部長がレポートを書き、充実した研修になっていった。
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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