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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(375)リーダーシップについて(8)―1
2022年4月25日
リーダーにとって何が大事か、この問題を考えた場合、今回はマーク・トウェイン作「王子とこじき」を例にして展開する。この物語は1883年に発表された。
「この本は、おぎょうぎのよい、そして気持ちのよい子供達、スージィとクララ・クレメンズのためにおまえたちの父が愛情をこめて書いたものである」と巻頭に述べている。いわば童話だ。16世紀中期の古都ロンドンが舞台である。
チューダー王家の世継ぎであるエドワード王子が生まれ、その同じ日にロンドン橋に近い貧民街のこじきの家で厄介者としてトム・キャンティが生まれる。この治める者と日陰者が双生児のようによく似ていたというほかは、何ひとつ本質的に変わりがないのに、衣装を取りかえただけでトムは王子になり、エドワード王子はこじきのトムと間違われる。
作者のマーク・トウェインは読者が疑問を持たないように、トムがアンドリュウ神父から学問や王室のしきたりなどを、詳しく教えこまれていること、また王子は武術を野外で練っていたので、トムと同じように日焼けしていることなどを書き加えている。
トムは、自分がこじきの子であることを主張しても、王室では王子が学問をしすぎたため、頭が狂ったと思い込む。賢いトムはやむなく書類にエドワードとサインする時も、王子の字を真似て書いたりして、次々に王室の環境に慣れてイギリス王国の統治者としての力を発揮していく。
一方、エドワード王子は浮浪者の群れにもまれて放浪、死の危険にさらされたり、投獄されたりして苦難の連続である。そして、いよいよトムがイギリス王となる戴冠式の当日、ウェストミンスター寺院に駆け込んで、自分の身分がエドワード王子である証を立て、エドワード六世に即位する。
この物語でマーク・トウェインは「たとえ王子だといってもただの人間にすぎないこと、そして人間の優劣は境遇と訓練とによって後天的に決定する」と主張し、「王室の生活は、多くの矛盾に満ちている。政治の貧困のために不当な処罰や不公平な裁判が公然として行われている。これらの悪政を改め社会不安を除く名君となるためには、王といえど賤民の地位に身をひそめて民の苦しみを体験して下情に通ずる必要がある」と説いている。
国王となったエドワードは、名君となる。それはイギリス社会の現場をこじきとして深く体験したからである。リーダーは、リーダーというだけで、人と比して優れているのではない。リーダーという職責を担当しているにすぎない。
それを勘違いして「私はエライ」とふんぞり返っては身も蓋もない。よきリーダーになるには、現場に立脚していくのだ。エドワード王子が名君たりえたのは、正に現場を熟知していたからだ。生まれながらのリーダーはいない。後天的な境遇(環境)と訓練によってリーダーたりうるのだ。したがってふんぞり返ったり、偉ぶったり、虚勢をはったりする経営者は現実が視えていない。
このことについて、私の知り合いの経営者から聞いた話を述べる。
(つづく)
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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