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  • ブログ・川﨑 依邦

    経営再生物語(189)心のバトンタッチ〈事例A〉

    2018年4月26日

     
     
     

    <経営理念の明文化>

     

    A社長は遺言のつもりで経営理念を文章化することにした。肉体は灰になることがあっても言葉は残る。経営理念の明文化である。40年の経営者人生の中で大事にしてきたことは何か。息子に伝えたいことは何か。じっくりと考えを詰めていった。

    「永続」「成長」「挑戦」「決断」「責任」と、五つの言葉に集約していった。「永続」の条件とは絶対に赤字にならないことである。「成長」するには向上心がいる。目標をしっかり持つことである。「挑戦」は変革の志を貫くことで発揮される。「決断」とは決める時はスパッと決めること。「責任」とは、経営の全責任は自分にあると思い定めることである。

    A社長は70歳を目前にしてさらなる闘志をかき立てた。生きている限りは前へ向かって進むことだ。〝前へ、前へ〟と歩を進める。「それがオレの経営人生だ」 ―後継体制づくりの闘いが本格化してくる。正念場である。

    税務調査が入って弱気の虫がうごめいていたが、目が覚めた。本格的な事業承継への意欲が経営者魂を揺り動かしたわけである。

    2代目である息子は30歳にして独立の道に入る。期間は2か年である。とにかく現場に入って汗をかいて、働く人の気持ちを分かることだ。朝4時に出社して夜11時、12時に帰宅する日々が続く。

    赤字の運送会社は新しく物流センターの運営を手掛けていた。赤字からの脱出をかけての新規業務である。フロに入るよりも、すぐ眠りたいというほどのハードな日が続いた。新規業務の物流センターが軌道に乗るまでは3か月かかった。死に物狂いの日々であった。この激務をやり切って息子は自信をもった。

    「やればできる」 ――思えば異常な日々であった。新婚して間もない妻とクリスマスイブに、朝からケーキを食べたことが忘れられない。夜早く帰宅することができないので、朝のケーキとなったわけである。

    息子は事業を継ぐということについて、考えが甘かったことを悟った。お客との会食で、父親の背広を脱がす行為は、単なるゴマスリではなかったか。父親に逆らわなければ、自然とバトンタッチされると思っていなかったか。

    いわゆる「社長」業でぜいたくできると思っていなかったか。この3か月のハードワークは息子に事業の厳しさを教えた。とにかくやるしかないのである。「自分はまだ若い。率先垂範で、引っ張っていくしかない」。A社長の経営理念の重さを、実感することができた。

    「永続」するには自分がしっかりすることだ。「成長」こそ人生の真髄である。毎日が成長と念じ続けていくことだ。「挑戦」はぶつかっていくことだ。「決断」は後継者としてのハラを決めることだ。「責任」とは動いている一人ひとりの期待に応え抜くことだ。五つのキーワードをかみしめる。

     
     
     
     

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  • 筆者紹介

    川﨑 依邦

    経営コンサルタント
    早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
    63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
    中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
    グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。

    株式会社シーエムオー
    http://www.cmo-co.com

     
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