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ブログ・小山 雅敬
第205回:物流子会社が実運送業務に進出する際の留意点
2021年4月13日
【質問】わが社は大手メーカーの物流子会社です。現在、運送取扱業務のみ行っていますが、今後は自社内でトラックを保有して実運送業務を行うことを検討中です。留意点などがありましたらご教示ください。
トラックを保有せず、協力運送会社との連携によって主に親会社の物流管理を担う所謂「物流子会社(物流管理会社)」の形態は、特に中堅企業において全国的に見られる形態です。過去に「商流・物流の切離し」「本業特化」などの観点で、物流子会社を新設する動きが各地で広まり、現在に至るまで継続してきました。
ところが、近年は①深刻なドライバー不足②(働き方改革など)コンプラ経営に対する社会的要請の高まり、③コロナによる経済変動などの不安定要因が増大しており、「安定的な物流体制維持」の命題が脅かされ始めました。
近時のコロナ禍で物資の安定供給がますます重要になるなか、他社に依存する他力本願型ではなく、自社内に実運送部門を立ち上げ、親会社のネームバリューで優良人材を確保し、自前で強固な物流体制を構築するべく、検討を始める会社があります。
ただし、物流子会社が実運送業を指向する場合は、安易に取り組むのではなく、以下の留意点を踏まえて十分に検討を重ねる必要があります。主な留意点は次の通りです。
①自社内でトラックを保有したり、ドライバーを雇用したりせず、実運送会社は100%子会社として独立して作ること ②人事賃金制度の適切な構築が最重要。親会社や物流子会社の制度をそのまま流用してはならない。職務の特性を考慮し、職務ごとに賃金体系を作ること
③実運送会社のドライバー管理は事務系社員の労務管理とは大きく異なるため、実運送業の経営や労務管理に習熟した人材を管理部門に配置すること
④安易に実運送会社の買収に走らないこと⑤実運送会社の収益管理は独立して厳格に実施すること、以上です。
上記5点の背景と理由は次の通りです。
①親会社や物流子会社自体が実運送会社になることは将来予期せぬ様々なリスクを抱え込む可能性がある
②職種間で勤務形態が大きく異なるため、無理に統一すると労務管理上の多様なトラブルが想定される
③経営の安定化のためには適切な管理者の選定が重要
④M&Aで実運送会社を確保するのは早道だが、旧経営体制のなかで染みついた垢を落とすのは至難の業
⑤実運送部門の利益と傭車差益とを明確に区分して管理する必要がある。
また当初から赤字前提の予算管理をしないことが肝要。
(コヤマ経営代表 中小企業診断士・日本物流学会会員・小山雅敬)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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