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ブログ・小山 雅敬
第246回:「時間外手当に相当」の賃金が否定される時代
2023年3月3日
【質問】弊社では距離と売り上げで計算する「実績手当」を「全額時間外手当に相当する。ただし法定の金額に満たない場合は補填する。」と賃金規程に記載し、割増賃金として支給しています。現状のまま見直さなくてもよいでしょうか?
「労働基準法37条は同条等に定められた方法で算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、同条以外の方法により算定される手当を時間外手当等に対する対価として支払うこと自体は同条に反するものではない」との考え方は定着しており、計算の便宜上、割増賃金の計算自体を走行距離等で計算することは否定されていません。
ただし割増賃金の額が適正か否かを判断するにあたり、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できることが必要とされています。また時間外労働の対価として支払われたものか否かを、その手当の性格や実態まで厳しく見て判断される傾向が強く表れています。以前は賃金規程に明記され、手続きが適正で、通常の賃金と割増賃金部分が明確に区分してあれば、割増賃金として認められたケースが多く存在し、運送会社でも同様の支払い方をしている会社が比較的よく見られます。
しかし、令和2年3月のK自動車事件最高裁判決以降、その支払い方が否定される事案が増えてきました。賃金規程に明記してあるにもかかわらず、なぜ割増賃金として認められないのか、その理由として、「その手当が通常の労働時間の賃金を含んでおらず、割増賃金のみを支給するものか否か」を判断基準とする事案が増えています。
例えばご質問の「実績手当」が走行距離と売り上げで計算されている場合、計算自体は問題ないとしても、仮に時間外労働がゼロの社員がいた場合、その社員に対しても実績手当が割増賃金として支払われることになると、この実績手当には「通常の労働時間の対価が含まれると考えざるを得ない」と判断され、通常の賃金と割増賃金部分が混在していると見られます。
そして、どの部分が割増賃金に当たる部分か不明確であるとの理由で割増賃金が否定されるケースが出ています。このような支払い方をしている場合は早めに弁護士や社労士等の専門家に相談し、例えば現行の実績で計算する賃金を歩合給に変更し、全体の賃金構成を見直して実績部分のウェイトを増やし、割増賃金を法定の計算通り(割増率0.25《ただし4.1以降は時間外労働60時間超0.50》)で計算して支給する見直し等を検討されるようお勧めします。
(コヤマ経営代表 小山雅敬/中小企業診断士・日本物流学会会員)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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