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ブログ・小山 雅敬
第275回:低収益企業の賃上げ手法について
2024年7月5日
【質問】今年の春闘の賃上げ状況や最近の物価上昇により、わが社でも賃上げを求める声が出ています。しかし、下請けの零細企業で資金的な余裕がないため、今賃上げを行うことに不安があります。零細企業が社員の賃上げ要請にどう対応すればよいのか教えてください。
最近は運賃・料金が上昇して収益が改善した会社から、賃上げの手法や妥当な賃上げ額等に関する相談を受ける機会が増えてきました。
運賃が上昇すれば賃上げすることは可能ですが、問題になるのは、運賃交渉が全く進まず収益が改善しない会社の場合です。
物価の上昇を理由に従業員が賃上げを求めてきた時、賃上げする資金的余力がない会社の経営者は大きな悩みを抱えることになります。
結論から申し上げると、多少無理をしても今できる範囲で賃上げを実施すべきです。資金的余力がなければ、月に数千円でも結構なので、社員の要望に多少でも応えておく必要があります。
何故ならば、一円も賃上げしない会社に社員が居続ける可能性は極めて低く、社員の離反は零細企業にとって命取りになるからです。ただし、その場合に賃上げの手法をよく検討する必要があります。
本来は基本給又は手当の金額を引き上げる方法が一般的ですが、賃上げの常態化で赤字体質が悪化し、将来経営危機に陥る恐れがある零細企業の場合は、通常の賃上げ方法を選択することが困難でしょう。
その場合は基本給や手当の金額を上げるのではなく、物価上昇に対する「生活支援調整金」として毎月一定額を支給する方法があります。
この手法のメリットは、①賃上げ額が給与明細の中で明確になり、社員が処遇改善を実感できる②将来、経営状況が悪化した場合には社員の同意を得て調整金の見直しを検討③将来収支が改善した時点で基本給や手当に振り替えて賃上げを定着させる、などの効果が期待できることです。
なお、既存の賃金項目の中で賃上げをするのであれば、最も望ましいのは基本給での賃上げです。何故ならば、今後の採用にプラスに働くからです。求人票のa欄(基本給)の数字は高い方が募集しやすいのです。
一方、諸手当で賃上げを行う場合は、会社が期待する人材を処遇するのに最も効果的な手当を増額する方法をとります。例えば、事故防止の推進を目的に「安全手当」の金額を引き上げるなどの方法です。
また、歩合給の歩合率や単価を引き上げる賃上げもあります。これは生産性の高い社員をより処遇したい場合や歩合基準の見直しを行う場合、もしくは総支給額を上げても残業単価の引き上げ幅は抑えたい時などに用いる方法です。
(コヤマ経営代表 小山雅敬/中小企業診断士・日本物流学会会員)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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