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ブログ・小山 雅敬
第156回:出庫時刻や休憩指示しない経営リスク
2019年5月14日
【質問】最近、同業者の間で賃金トラブルの話をよく聞きます。わが社は現在まで大きなトラブルは発生していませんが、他人事とは思えません。日常管理の注意点について教えてください。
ある運送会社で実際に起こったことを例に挙げてみます。その会社にトラブルメーカーの従業員が一人いました。日常業務において数々のトラブルを起こし、始末書や反省文を何枚も書いているドライバーでした。些細なことで、すぐカッとなる気質で、気に入らないことがあると荷主の担当者にも平気で口汚く罵ったり、怒って施設の扉を足蹴にするような人でした。職場の仲間も敬遠気味でしたが、その人から急に「退職したい」と申し出がありました。退職後しばらくしてから会社に1通の内容証明が届きました。「在職中に休憩も休息も全く取れず、全て労働時間にあたるので、未払い賃金合計1000万超を支払え」という内容でした。1週間に50時間以上の残業があると計算されていましたが、本人の運行記録を再確認すると、休憩も休息も法定通りしっかりとっていました。運行実態をよく見てみると、必要もないのに1時間早く出庫し、出庫の1時間後から連続8時間以上の休息(本人は待機と主張)をとり、通常の時刻に荷積みを開始していることがわかりました。本人は在職中に、家庭不和のため「家に居たくない」と職場の仲間や上司によく漏らしており、夜間も家に居たくなかったのかもしれません。
運行管理者が出庫時刻を明確に指示し、勤務時間を本人任せにしていなければ、また日常から指導や注意をしていれば、このような事態にはならなかったでしょう。
出庫時刻だけではなく、休憩場所や時間についても明確に指示することが重要です。駐車用のスペースに駐車させていれば問題ないですが、仮に本人が公道に停めて休憩や休息を取っている場合は、車の監視義務を負い、車を離れることができなかったため、労働時間にあたると主張されるでしょう。
現在、運行管理における時間管理の重要性は、ますます高まっています。従来、運送会社ではドライバーの自発的行動や意思を尊重し、早めに出庫する社員を「やる気がある」「責任感が強い」などと評価する側面がありました。運行管理者も「遅刻して延着になるよりは良い」と黙認することがあります。しかし、現在では、このような黙認は大きな経営リスクになります。賃金トラブルの要因は賃金体系だけの問題ではなく、日常管理面も留意すべきです。
(コヤマ経営代表 中小企業診断士・日本物流学会会員・小山雅敬)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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