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ブログ・お勧めビジネス書レビュー
仕事はストーリーで動かそう(川上徹也・著、クロスメディア・パブリッシング)
2009年6月5日
「仕事はストーリーで動かそう」の著者・川上徹也氏(湘南ストーリーブランディング研究所主宰)は、「ビジネスをエンタテインメントに!」をキーワードに、企業のブランディングを中心に活動を行っている。同書には、商品やサービスに、相手から共感を引き出す「ストーリー」を付加することで、仕事やビジネスをうまく進めることができるようになると説く。
川上氏
「たとえば、先日テレビで、ある野球選手が引退したというニュースを見た。家族を球場に招いてセレモニーを行っていたのだが、全然知らない選手だったのにとても印象に残った。『今日で引退です』と聞いただけであれば全く記憶に残らなかったと思う。ささいなことではあるが、単なる『ニュース』が『ストーリー』になったという一例」
同著では、「ストーリー」づくりが成功した企業の例として、ミネラルウォーターのボルヴィック社の「1Lfor10L」(売上の一部を、アフリカで飲料水を確保するための井戸づくりなどを行うユニセフの活動に寄付するというキャンペーン)や、アメリカ・ワシントンにある「パイク・プレイス市場」(魚を投げるパフォーマンスで有名、〇一年にはCNNの「アメリカで一番わくわくする会社」に選ばれた)、そして松下電器(現・パナソニック)の松下幸之助の経営哲学などが紹介されている。これらの成功例を読むと、「ストーリー」を紡ぐ資格は、すでに有名なブランドを持っていたり、何か特筆すべき事業を営んでいたりする企業にのみあるのではないかと思ってしまうが、同著は、「ストーリーは誰にだってつくれるのです」と続ける。
「大げさなことである必要はない。その会社を応援したくなるような、気持ちを動かすエピソードが何かあるはず」
NHK「プロジェクトX」がビジネスパーソンにウケた理由も、各話が「ストーリー」のセオリーに則っていたからだと分析。どんな企業にも、共感できる「ストーリー」がある―。川上氏は、「ストーリーは『つくる』というよりも、『発見する』ものだ」と話す。
「どんな人にも、どんな商売にもある。見つからない場合は視点を変えてみる。その会社では当たり前のことも、よそから見たら『凄い』と思ってもらえることがあるかもしれない。会社で言えば、興した時にはどの経営者にも燃えるような想いがあり、苦しい時にはその気持ちを持って乗り越えてきたはず。これも、その会社にしかない大切なストーリー」
そして、こうして見つけた「ストーリー」をうまく活用することで、得意先や上司、部下、消費者の心を動かすことができると説き、同著ではシーン別の実践例を挙げている。ただ、ひとつ注意しなければならないのは、「創業時はこんなに辛かった…」、「開発にはこれだけ長い年月がかかった…」というような苦労話に終始してしまうと、相手が「押しつけ」と感じ、反発を抱く可能性があるということ。
「単なる『社史』、実績だけでは心に響かない。必ず先のビジョン、『未来のストーリー』とともに話すことが大切。経営者が『これからこんなことをするぞ!』と未来を語ることで、応援してくれる人や、一緒にがんばってくれる人が必ず現れる」
では、物流ウィークリー読者がすべきことは。
「差別化をしにくい業界であるからこそ、『ストーリー』の考え方を取り入れていただきたい。たとえば、『情報』でも『気持ち』でも良いが、『モノ』以外の何かを運ぶという視点を持つとか。何かひとつ荷主を惹き付けられるようなポイントがあれば、コスト以外のところで勝負できるようになるはず。経済全体が苦しいというこんな時だからこそ、共感するという『気持ち』は強いはず」
ちなみに、川上氏にとって同著が初めての著作。特設ブログ「『仕事は―』が、30万部のベストセラーになっていくストーリー」には、30万部という大きな目標に向かって編集者と二人三脚で営業を行い、同著の売上を伸ばしていく過程が綴られている。これもまた一つの「ストーリー」と呼べるもので、著書に記した内容を自ら実践している格好だ。
同氏は今後、「ストーリー」を切り口とした経営者向けのワークショップの開催なども検討中。ストーリーを使ってブランディングを行う「ストーリーブランディング」を提唱していくという。
▼「仕事はストーリーで動かそう」川上徹也・著、クロスメディア・パブリッシング、1450円(税別)
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