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ブログ・高橋 聡
第218回:令和時代の運送業経営 労務トラブル実例編(11)
2022年3月18日
【労務トラブル実事例編】⑪
「コロナ禍で頑張る運送業経営者を応援します!」というシリーズで新型コロナウィルス影響の下で「令和」時代の運送業経営者が進むべき方向性、知っておくべき人事労務関連の知識・情報をお伝えしています。今回も前回に続き、運送会社で実際に発生した「労務トラブル実事例」とその対応策について説明してまいります。
1.労務トラブル実事例
⑴トラブル内容
茨城県の運送会社A社(社員数200人)は、主としてエネルギー関連の輸送を行う運送会社で、給与制度は積地から下し地毎に定められている単価に運行回数を掛けて「運行給」とし給与総額を計算、最低賃金レベルの時給を基準とした基本給、安全運行手当、時間外手当を支給した残額を「調整時間外給」として支給する方式であった。「調整時間外給」について、労基署監督官の調査の際には、「臨時便や特車便、スポット運行が発生した場合の手当」という説明を行うことで「是正勧告」を受けることはなかった。
しかしながら、退職した社員が相談した弁護士から給与制度に関し、次の質問を受けることとなった。
質問①「調整時間外給」は時間外手当であるのか。時間外手当であるならば何時間分の時間外手当か。支給済の「時間外手当」と合わせて何時間分の残業代となるのか。実際の残業時間数と連動しているのか。所謂過労死ラインである月80時間を超過する「定額時間外手当」は無効となるが理解しているのか。無効の場合、所定内手当てとして再計算する必要があることを理解しているのか。
質問②「調整時間外給」は基本給・手当と総額の差額であるならば、「調整手当」(所定内手当)ではないのか。「調整手当」であれば「基本給・手当」と合算し残業単価を計算すべきではないか。その場合、現状の方式では単価が低く未払いが発生している事を理解しているのか。
会社としては、時間外手当は基本給・安全運行手当を「所定内給与」として単価計算し、時間外手当として支給しており、さらに少ないドライバーでも8万円、多いドライバーの場合は25万円にもなる「調整時間外手当」を支給することで本来の残業代よりも多く支給しているので問題ないと考えていたのだが…。
事例のポイント
本事例の問題点としては、「調整時間外給」の計算方法が総額から基本給・手当て・時間外手当を差し引いた残額という計算方法ならば、それは「残業代」とは言えないという指摘を受ける可能性があることです。「残業代」であるならば、実際の残業時間数と連動していることが必要です。多く払えば問題ないということにはならないというのを理解する必要があります。そして「残業代」ではないとなると「所定内手当」として再計算され、未払い残業代が月数十万円、2年分で数百万円の請求額となる可能性があることがポイントです。
2.対応策
係争を避けるため、残業代は「残業時間数と連動させる」ことが必要です。本事例の場合、基本給・手当・時間外手当を計算し、仕事毎の単価(要変更)に運行回数を掛けた「運行給」および「運行給」に関する「歩合給割増賃金」を支給する方式に変更すれば、未払い残業代を請求されるリスクは無くなります。残業代は残業時間数、歩合給は総額ではなく歩合給そのものを求める式で計算することが必要です。関連記事
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筆者紹介
高橋 聡
保険サービスシステム社会保険労務士法人
社会保険労務士 中小企業診断士
1500社以上の運送会社からの経営相談・社員研修を実施。
トラック協会、運輸事業協同組合等講演多数。 -
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