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ブログ・高橋 聡
第222回:令和時代の運送業経営 労務トラブル実例編(15)
2022年5月17日
【労務トラブル実事例編】⑮
「コロナ禍で頑張る運送業経営者を応援します!」というシリーズで新型コロナウイルス影響の下で「令和」時代の運送業経営者が進むべき方向性、知っておくべき人事労務関連の知識・情報をお伝えしています。
今回も前回に続き、運送会社で実際に発生した「労務トラブル実事例」とその対応策について説明してまいります。
1.労務トラブル実事例
⑴トラブル内容
東京都所在の運送会社A社(社員数60人)は主に建築系資材の配送を行う運送会社であった。
以前は完全歩合給で売上の38%を渡すという方式で給与を支給していたが、一部の異業種からの転職組ドライバーから「もっと安定的な給与制度にしてほしい」という要望が多くなったため、給与を2パターン用意したうえで、稼ぎたい場合は「歩合給主体」、安定志向の場合「日給型」とし、ドライバーに選んでもらうという方式にすることで不満の声は無くなってきていた。ある日、おしゃべり好きで明るいムードメーカーのBさんが出社し、いつもは騒がしいが、その日はほとんど話をせずに点呼を行って出発しようとしている。心配になったA社社長は「どうした、体調は大丈夫か?」と声をかけたが、Bさんは何も言わず出庫していった。
その日の昼過ぎ、荷主のセンター長から電話があり、「Bドライバーの様子がおかしいのですぐ来てくれ」と連絡が入り社長が現場に急行したが、社長が駆け付けた際には、すでに息を引き取っていた。急なことにA社社長は慌てたが、運行は助手にやってもらい、遺族への連絡などに奔走した。死因は「大動脈解離」であり、葬儀費用や弔慰金を一定金額支給するなど出来るだけのサポートを行った。遺族は生活困窮状態にある母と姉であり、突然のことに動揺していたが、A社社長の献身的で誠意ある対応に関しては「お世話になりました」とのコメントもあった。
1か月が経過したところで遺族の姉から連絡があり、「会社の業務が原因ではないのか」「勤怠データを出してほしい」との要求があった。Bさんは稼ぎたいタイプのドライバーであり月間90時間の残業を行うなど長時間労働の月もあった。
A社では、コロナ禍でコスト削減を図る目的で数か月前に業務災害補償保険を解約していた。社長は「書類、データがなぜ必要なのか」と聞いたが、遺族は「言いたくない」の一点張り、どうやら専門家に相談しているらしい。A社社長は今後の展開に不安を感じている。⑵事例のポイント
本事例は配送途中にドライバ―が急死してしまうという痛ましい事案です。事故による死亡ではなく「病気」による死亡事案も現実に起こっています。残業が80時間を超過し、脳血管や心臓系疾患を発症して死亡などに至った場合、業務との因果関係を認定し「労災認定」がなされるというケースがあります。遺族への賠償金は1億円を超過する場合もあります。後遺障害の場合は賠償金額がさらに大きくなります。厚労省による公表資料によると脳・心臓疾患の労災補償に関し、道路貨物運送業が業種別請求・認定件数で1位になっていて対策が必要です。
2.対応策
健康診断結果の確認や産業医への相談など、ドライバーの健康面の対策を行うことが必要です。普段の様子が違う、顔色が悪い、元気がないなどのサインに積極的に関与する必要があります。稼ぎたいドライバーに対しても健康面に配慮する必要があります。残業70時間になったら配車をコントロールするなどの対策が有効です。そして、いざという時のために事業主の損害賠償責任を保障する「業務災害補償保険」への加入が必須です。
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筆者紹介
高橋 聡
保険サービスシステム社会保険労務士法人
社会保険労務士 中小企業診断士
1500社以上の運送会社からの経営相談・社員研修を実施。
トラック協会、運輸事業協同組合等講演多数。 -
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